午後は、クライアント5社とリモート会議。これも移動時間がないからこそ可能となったことだ。その後、翌日の資料の準備を終えると、時計の針はちょうど19時を指していた。
仕事を終えて庭へと出ると、バーベキューの準備をしている妻の横から、息子が「お帰りなさい!」と走り寄ってきた。家族と笑顔でバーベキューなんて、昔見たアメリカのホームドラマのようだ。
食事を終えて息子と一緒に風呂に入る。息子が寝た後は妻とテレビを見ながら会話をし、ベッドに入ってゆっくりと本を読んでいると、いつの間にか就寝。
このような生活は私にとって半年前までは夢でしかなかったが、今となってはすっかり日常となっている。
私の日常がすっかり変貌を遂げたのは、デジタル技術を最大限に活かしたリモートワークへの転換にうまく成功したからだ。しかし当然、初めから全てがうまくいったわけではなかった。
新型コロナウイルスが猛威をふるいだした2020年3月上旬、私たちの会社も時差出勤を開始した。その後、東京都の外出自粛要請を受けて、3月末より全社員を在宅勤務とした。最初は戸惑いもあったが、あえて「リモートオンリーの仕事をしてみよう」という挑戦のつもりもあって、全社リモートワークに踏み切った。
社員の利益に対する責任感がリモートワーク移行へのカギとなる(Unsplash)
リモートワークになって社員の責任感は増した
最初は決してスムーズではなかった。しかし皆で知恵をだしあうことで、大抵のことは乗り切ることができている。社員の無駄な出勤を極力無くすために電話は自動転送し、契約書は電子契約書に極力移行した。今では、1週間に1回ほど郵便の仕分けのために社員が出勤すれば済んでいる。細かいことでも一歩ずつ着実に変えていくことで、リモートワークに適した労働環境に変化していく。
元々私たちの会社は、自立した社員を育てることを目指していたので、一人ひとりの利益に対する責任感が強いという特徴があった。これはリモートワークへとスムーズに移行できた大きな要因の一つだったと思う。一人ひとりの評価も成果主義であるため、リモートワークになっても責任感は衰えるどころか、むしろ増したように感じる。 リモートワークで変わるのは単に働き方だけではない。働き方の変化は、働く人の意識にも大きな影響を与えるのだ。
この連載ではこれから、デジタル技術が可能にする元気で豊かな人生、すなわち「デジタブルライフ」という新しい生き方を提唱していく。この生活を実現するためには、デジタルを活用した仕事への転換と個人の意識変革が必要となるが、そのために必要となるポイントを解説していきたい。
鈴木 康弘◎1987年富士通に入社。SEとしてシステム開発・顧客サポートに従事。96年ソフトバンクに移り、営業、新規事業企画に携わる。99年ネット書籍販売会社、イー・ショッピング・ブックス(現セブンネットショッピング)を設立し、代表取締役社長就任。2006年セブン&アイHLDGS.グループ傘下に入る。14年セブン&アイHLDGS.執行役員CIO就任。 グループオムニチャネル戦略のリーダーを務める。15年同社取締役執行役員CIO就任。16年同社を退社し、17年デジタルシフトウェーブを設立。同社代表取締役社長に就任。デジタルシフトを目指す企業の支援を実施している。SBIホールディングス社外役員も兼任。