眠らない日本社会 コロナ禍に「睡眠改革」が必要な理由

日本人の睡眠不足は世界的にも最下位レベルだと指摘されている(Shutterstock)


心理学から出発して睡眠に関する研究を行なっている明治薬科大学准教授の駒田陽子氏

健康的で無理のない生活リズムには人それぞればらつきがあるため、始業時間などについて社会側が柔軟な考えを持つことが必要だとも言う。個人の生活リズムに合わせて働き方を変えるといっても、9~17時の「定時」という考え方が染みついている日本のサラリーマンにとってはなかなか想像がつきづらいかもしれないが、奇しくもコロナ禍でリモートワークなどが盛んになった結果、 「定時」という発想は覆されつつある。これについて駒田氏はどのように見ているだろうか。

「コロナ禍で、人々の睡眠習慣にも変化が起きているということは指摘されています。とりわけ緊急事態宣言中は、リモートワークなども含めて多くの人が自宅にいたので、自分のリズムで生活できるケースが増えたのだと思います。平日も休日も同じような時間に寝起きする人が増えたことで、社会的時差ボケが減少傾向にあると言われています」

また、コロナ禍の取り組みとして、時差出勤やリモートワークを行いやすくするために「フレックスタイム制」を導入した企業も少なくない。駒田氏は続ける。

「現在、コロナ禍によって、働き方というものが急速に変わりつつありますが、睡眠学の立場からみた場合、これは良い傾向だということができます。社員それぞれが仕事において高いパフォーマンスを出すためには、各個人の体内リズムに合わせた働き方を認める社会が必要となります。フレックスタイム制の導入は、ある程度各人の睡眠に良い結果をもたらすと思います」

コンビニやファミレスで進む脱・24時間化



コンビニ大手のファミリーマートでも一部の店舗で時短営業が始まっている(ShutterStock)

また働き方の変化といえば、昨今はコンビニやファミリーレストランで24時間営業を見直す動きが相次いでおり、深夜営業をしない店舗が増加している。コンビニ大手のファミリーマートの場合、24時間営業をしているフランチャイズ1万4600加盟店の5.4%に当たる787店が、6月からは時短営業を始めている。またファミリーレストラン最大手のすかいらーくホールディングスは、7月から午後11時半以降の深夜営業を廃止した。

コロナ禍を契機に日本では深夜営業の見直しが積極的に検討されているが、睡眠学の立場からこの動きはどのように見えるのだろうか。駒田氏は次のように指摘する。

「私は深夜営業が見直される方向に進むことは大賛成です。もちろん、警察、消防、医療など深夜の交代制勤務がどうしても必要になってくる職種というのはありますが、深夜帯の営業を止めることが可能なコンビニなどでは、早急に検討を進めるべきです。夜は人間にとって寝る時間であるということを再認識することは重要です。

体内リズムからすると、人間は夜行性ではなく昼行性の動物なので、朝起きて昼活動して夜眠るという自然のリズムが備わっています。朝起きるのが難しい、昼間は体調が悪いという人もいるので、その場合については別に議論が必要ですが、全体の傾向をみた場合、深夜に働かざるを得ない人々が減るような施策を、社会の側で考えていくことは重要だと思います」

フレックスタイム制の導入によって始業時間を数時間調整することなどは生活リズムを整えるのに肯定的に働くが、昼夜が大きく逆転してしまうような働き方は、ホルモンの分泌周期などさまざまな生理現象を調整するために人間に備わっている自然のリズムを崩すことになるため、健康という観点からみれば行わないことが望ましいのだ。
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文=渡邊雄介

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