3. 構造
今日の教育の構造は脆弱です。新型コロナウイルスの感染拡大により、労働市場の全体像が不確実な状況にある中、教育にはこれまで以上の柔軟性をもたせる必要があります。学生が自分の将来をカスタマイズできるようにするためには、労働界の状態を把握できること、働く人の世界とのつながりを多く持てること、そして、より細分化された選択肢が必要です。
2年制や4年制の学位だけが唯一の選択肢であってはいけないのです。どの国の高校生も、現在スイスで実施されているように、見習いで仕事を体験してみたいと思っているかもしれません。学生が、仕事に即したより高いスキルを身につけられるようにするため、職業専門学校の数を増やすべきかもしれません。会計の準学士号や学士号取得に向けて勉強している間に、金融工学のマイクロマスターズのような別のオンライン修了証書を取得したいと思う学生がいるかもしれません。
そこで登場するのが、「マイクロクレデンシャル」です。これは、カリキュラムを調整するオプションを学生に提供する制度です。新型コロナウイルス感染拡大が労働界に与えた教訓を一つ挙げるとすると、社会人は新しいスキルを迅速に、そしておそらく継続的に習得できなければならないということでしょう。これは継続的な成人教育のための新しい選択肢が必要ということを示しています。
その大半は、世界各地にあるエデックスやコーセラのようなオンラインコースになるでしょう。機器の操作方法を学ぶ場合など、一部の学習はどうしても対面で行う必要がありますが、長期に渡って仕事を休むことは困難です。1週間以上の集中的な対面体験、または数回にわたって週末を利用した体験が必要となります。いずれにせよ、現在の教育システムの構造は画一的で自由がないため、きめ細やかな対応が必要です。
改革の必要性
新型コロナウイルスの感染拡大は人間社会から近接距離での接触を奪いましたが、それによって現在の教育制度の欠陥の一部が露呈する形となりました。1.6兆ドルに上る学生の負債、教育機関への信頼低下、苦境に陥った大学といった多くの症状は、病気であったら既往症ともいえる、既に存在していた問題です。そして、恐らくそれ以上に明確になっているのは、公共の場での対話において微妙なトーンが消えたこと、グレーの濃淡が必要な時に白か黒かの立場がとられてしまうこと、そして、思いやりやクリティカルシンキング、分別のある議論が衰退したことではないでしょうか。
教育システムがあらゆるレベルで改革されない場合、市場経済学の冷酷な計算はそのほとんどを押しのけ、教育の最も貴重で繊細な側面ともいえるエンゲージメントも失われてしまうでしょう。ウイルスによるこの自然との闘いが終わった暁には、私たちはその埃をゆっくりと払い、2021年以降の教育におけるエンゲージメントを再活性化していかねばなりません。
*筆者のサンジェイ・サルマ氏は、MITの機械工学教授であり、オープンラーニング担当副代表を務めている。先駆的なオンライン教育に加えて、オープンラーニングには、教育の未来について世界中の大学と連携する「ジャミール教育研究所」が含まれている。サルマ氏は近刊『把握力:学習方法を変革する科学(Grasp: The Science Transforming How We Learn)』の著者である。
(この記事は、世界経済フォーラムのAgendaから転載したものです)
連載:世界が直面する課題の解決方法
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