「大きなストレス源に見舞われると、生活習慣が乱れ、自分をコントロールできない、普段の自分ではないように感じる。これまでは、そのストレス源がなくならない限り、自分が正常だという感覚は戻ってこないと考えられがちだった」。研究論文の共同執筆者、メリーランド大学ロバート・H・スミス経営大学院のトレヴァー・フォールク教授は報道機関向け発表でそう述べている。
ところが、彼のチームの研究では、非常にストレスの大きい出来事からの「心理的な回復」は、その出来事とまだ苦闘している間に始まり得ることがわかった。
研究では従業員122人を対象に、新型コロナウイルスのパンデミックによる生活への影響を2週間にわたって1日数回調査した。調査は世界保健機関(WHO)がパンデミックを宣言してから2日後の3月16日に始められた。
研究では人がどのくらいの速さで「正常」な状態に戻るのかを、「無力感」と「確かさ」という2点に着目して調べた。すると、参加者は調査開始後の2日間はやはり無力感と不確かさの程度が高かったが、2週間のうちには正常感を取り戻し始めていたという。
参加者は主観的にはストレスの度合いが上がっていても、無力感は減り、確かさが増していた。「人々が正常感を取り戻すペースには目を見張るものがあり、前例のない課題に直面した場合の回復力を明確に示すものだ」とフォールクは言及している。
意外にも、参加者の中でストレスへの適応性が最も高かったのは、標準的な心理学の定義で最も神経質と言える人たちだった。調査の初めの時点では「不安、落ち込み、自己意識」の程度が最も高かった人たちは、ほかの人たちよりも回復ペースが速い傾向にあったという。
今回の研究ではその理由の説明までは踏み込んでいないが、過去の研究では、「健全な神経症的傾向」の人はストレスの大きい出来事に対する警戒度や積極性が高くなる可能性があることが示唆されている。
全体として見れば、参加者の大半は想定よりもかなり早く正常感を取り戻し始めていた。
この研究は参加者の自己申告に基づくものであるため、信頼性などには限界があり、2週間たった後の状態などもわからない。それでも、前例のない出来事に人はどう適応するのかについて、一端を垣間見せる成果となっている。
論文は米専門誌「応用心理学研究」に掲載される。