ある編集長が、半ば冗談で私を「現代の空海」と名付けたことがあります。理由は2週間でサンスクリット語を覚え、遣唐使の一員として留学した空海と、1週間でプログラミングを学び、次の1週間で人工知能(AI)を学んで、AIプログラミングコンテストの日本予選を通過した私を重ね合わせたからでしょう。
実は、予選を通過すれば、本選が行われる米国に“ただで行ける”という特典に目がくらんで挑戦したので、恐縮しきりなのですが、おかげで、日本仏教の聖地である高野山をはじめ、仏教を代表する様々な場所での講演依頼をいただくようになり、心から感謝しています。
そして何より、空海に興味を持ち、教えに触れたことが、私にとって最大の財産となりました。それは、AIと仏教には共通点があるからです。
AIは1950年代に始まり、56年に行われた初の本格的な会合「ダートマス会議」において、人工知能(AI)という名前がつけられ、学術研究分野として確立されました。その会議の発起人のひとりで、AIの父であるマービン・ミンスキーは、仏教を心理学と捉え、研究していました。
なぜなら、AIは軍事にも使える一方で、社会問題も解決することができる、世界をユートピアにもディストピアにも変えられる技術であることから、使う人間の成長も求められ、マービン・ミンスキーは、人間の思考の特徴を仏教から見出そうとしたのです。
空海は、成人した人間の精神発達を十段階で表した「十住心論」を提唱しています。まず、第一段階では欲のおもむくままだった人間が、ルールを守り、神々に憧れた後、仏教へ向かうことで利己的ではなく、利他的に物事を考えるようになって、究極の第十段階では悟りを開きます。
本書にはその十段階が完結にまとめられており、人間の精神発達の流れを可視化することができます。
繰り返しになりますが、「テクノロジーの進化」と「人間の精神発達」は一体であり、私たちの未来は、この2軸の先に存在しています。言うまでもなく、両方が高ければ理想的な社会を作ることができる半面で、テクノロジーより人間の精神発達レベルが低いと、その対極にあるディストピアに向かっていきます。また、人間の成長にテクノロジーの進化が伴わなければ、一部の社会問題しか解決することができず、もし、両方のレベルが低かった場合、社会問題はいっこうに解決されません。4つの事象からどれを選ぶのかは、明確ですよね。
本書を通じて、今の自分がいる場所やこれから先の人生の目標を、改めて確認してみてください。
いしやま・こう◎東京工業大学大学院総合理工学研究科修士課程修了。2006年リクルートホールディングス入社、15年4月、Recruit Institute of Technologyを設立し、初代所長に就任。17年3月、デジタルセンセーション取締役COOに就任。17年10月の合併を機に、現職。