これはひとえに「新聞を作るために入社した」記者の存在意義を、このデジタル期に適用できないがゆえだろう。優秀な記者は取材の現場へ。しかし、そうして苦心された記事はどのようにユーザーに届けられるか。デジタル施策に本腰を入れている会社はどれほどあるだろうか。
出版社にも同じことが言えるだろう。ユーザーに届かなければ、社会的使命を果たしようがないのだ。
日本の全国紙では日経新聞が唯一、例外のようだ。スクープ、速報を最重要視する作り方ではなく、経済情報を徹底して伝える、といったコンテンツ制作に特化してきた体質が反映されているのだろう。紙だろうがデジタルだろうが露出媒体に固執しない。そんな姿勢がデジタル時代到来に際し、自社プロパティを分散させず、ビジネスモデル再構築を真摯に受け止めていた結果だろう。
例えば、新型コロナウイルスの患者数について日経新聞は「新型コロナウイルス感染世界マップ」というページを展開し、デジタルメディアの特性を活かしている。日経はデジタル領域において課金をビジネスモデルの基本に敷いているが、それでもこうした社会的使命を果たすコンテンツは無償開示している。
記事の「課金」の壁
日本のジャーナリズムを構築するも、戦略やデータを軽視しがちな新聞各社を活用したのが新興メディアだ。LINEニュース、スマートニュース、ニューズピックスなどの台頭を考えれば、デジタル・メディアの参入にはまだ余地がある証左でもある。
LINEはスマホのコミュニケーション・ツールを通じたニュース配信というプラットフォーマーとしての位置から躍り出て、ヤフーとの提携に至った。
スマートニュースはユーザーがクリックするニュースを徹底的にアルゴリズム化する手法で、人手を介さずニュース配信を重ねる。キューレション・メディアとしての地盤を固め、国内外で5000万以上のアプリ・ダウンロード実績を持つ。ニューズピックスは、「ピッカー」というニュース選択の専門家を配し、読まれるテーマを徹底分析、オリジナル記事も任意のテーマにリソースを集中させユーザーを獲得し、有料会員へと昇華させている。どのメディアも徹底した戦略とデータ分析の上に今日の地位を築き上げた。
ニューズピックスの登録会員数は420万、有料会員数は10万(2019年8月)、一方、朝日新聞は登録会員数350万、有料会員数は非公開のようだ(2019年11月)。新聞各社の記事はヤフーニュース上にて閲覧できる。だが、その続きを有料の自社サイトで「閲覧できます」と誘引し、いったいどれほどのユーザーが課金に同意するだろう。