自宅リビングから53連夜。小曽根真ライブ、集客は「1晩でホール8個分」

撮影:小田駿一


「自分たちは音楽を愛する人たちのおかげで生活することができています。だから、今こそそれをお返しすべきときだと思ったのです」。

ただ、自分たちのプライベートを見せることでかえって不快に思う人もいるのではないかという懸念もあった。だから、開催に踏み切る前には小曽根氏と三鈴氏、ふたりでじっくり話し合ったという。

そして、最終的には、「今ここにあるのは皆さんのおかげ。だから、皆さんには楽しんでいただく権利があると思ったのです。ニューヨークやヨーロッパでは厳しいロックダウンにより、緑などの自然すら見られないという状況もありました。だったら、日本の緑を見ていただこうと思い、すぐにはじめることを決断しました」(三鈴氏)

「心にもライフラインがある」


ふたりはもうひとつ決めごとをした。

「やるなら毎日開催しよう」だ。

身体にとってのライフラインとは別に、心にも絶対に必要なライフラインがあるはずだとふたりは思った。そこで、「自分たちにできることは何か?」と考えたとき見つかったのが、心が折れそうな方に対して音楽を提供することだった。

「音楽が心のライフラインであるならば、日々必要なはず。だから毎日やろう」(三鈴氏)

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「今回、不要不急の事柄として、真っ先に音楽や芝居が挙がりました。『音楽はぜいたく品である』と思われているところがあった。でも、僕はけっしてそうだとは思わない。音楽はもっともっと近いところになければいけないと思っている。音楽をやっている人間としては、生命維持に直接必要がないといわれたら、いや、それは違うんじゃない? と強く思いました。音楽に限らず、いい芸術というものは『生きていることを実感させてくれる』もの。決してぜいたく品や嗜好品ではないと思うんです」(小曽根氏)

このような思いを抱きながら、ふたりのリビングルームコンサート構想ははじまった。

「それならまずは調律だ」と、小曽根氏はすぐ調律師の外山洋司氏に依頼した。また、3月からのツアー予定がキャンセルになった音響スタッフにも仕事として手伝ってもらった。そのように粛々と準備を進めていたところ、日本にも緊急事態宣言が発令。満を持してのコンサート開催となった。

初回は4月9日。以来、5月31日まで53日間、毎晩21時からの1時間、1日の休みもなく配信は続いた。

「オーチャードホール8個分」の観客が


当初2000人ほどだった観客は回を追うごとに増え続け、最終日には1万7000人に。今回の取材の会場にもなった渋谷・オーチャードホールの座席数が2150席なので、実に会場8個分の観客数だ。日本武道館(最大収容人数14471人)にも収まりきらない数の人たちが、小曽根氏たちに引き寄せられ、魅了されたことになる。リアルならば大変な「密」だが、そこはオンライン。いくら大人数になってもなんら問題はない。

今回のこのリビングコンサートでは、三鈴氏のプロデュースが随所に光っていた。
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文=柴田恵理 撮影=小田駿一 編集=石井節子

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