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時計を製作するには、大きく分けて設計、製造、組み立てという重要な工程がある。どの部門が疎かになってもいい時計を作ることはできないのである。ここでは、その中でもとりわけ高度な技術を必要とする「スケルトン」について取り上げたい。


伝説の「キャリバー68」再興の狼煙が上がる


今でこそ、頑丈そうなスポーツウォッチにスケルトンという組合せも珍しくなくなったが、かつてはスケルトンといえばドレスウォッチと相場が決まっていた。いわゆるドレスウォッチは、基本的に薄型で、正統派のビジネススタイルに相応しい紳士の腕時計という印象が強い。事実、そうであった。

日本が誇るセイコーも1913年に「ローレル」を発表し、腕時計の製造を開始するのだが、このモデルもいまならそのデザインからドレスウォッチと言えなくもない。ただ、セイコーで長年企画を担当してきた田中淳氏に言わせると、「ドレスウォッチという概念が当時のセイコーでは確立されていなかった」とのこと。だから、69年に開発されたキャリバー68が、ドレスウォッチ用という意味で、その最初のものだろうということだ。

約4年の歳月をかけて開発されたキャリバー68は、厚さ1.98mm。現在でも世界で5本の指に入るトップレベルの薄さで、このキャリバー68こそが、現在に続く機械式クレドールの原点となるのである。この69年は、世界初のクオーツウォッチ「セイコー アストロン」誕生と同年で、「クレドール」ブランドが誕生する約5年前の話である。


1980年、第二精工舎(当時)にプロダクトデザイナーとして中途入社した田中淳氏は、セイコーにおける機械式ウォッチ隆盛の立役者だ。

田中「当時は機械式で世界の頂点を目指すべく、凄まじい開発パワーが社内に渦巻いていた時代です。その中でクオーツの開発をも並行して動いていたと聞きました。当初、クオーツは社内でもまだまだ実用にはならないと多くの人が思っていましたし、経営陣もおそらくそう考えていたのだと思います。そんな中、スイスに伍してやっていける商品を作りたいという機運が高まって、キャリバー68が製作されたのです。でも、実際にはクオーツの薄型化、小型化が想像以上に早く進むので、キャリバー68の登場するシーンが狭められていったという感じですね」

しかし当時のセイコーには、キャリバー68のような美しい仕上げをを施したムーブメントは他になかったという。さらには、その薄さも大きな魅力だった。

田中「キャリバー68は、厚みで2mmを切るということをテーマにして、それを達成したのですが、当時としては思い切った寸法ですよね。実際にクオーツがそこまで早く薄型化を達成できなければ、もっと活躍する場面は出てきたんだろうと思います」

そんな想いを抱くのは、自身がその約20年後に機械式キャリバー68再興の狼煙をあげ、その過程でかつての優秀なムーブメントを目の当たりにしていたからだろう。


68ムーブメントを手にする田中氏。機械式を再び手がけるにあたり、クオーツ登場以前に作られていた古いムーブメントを探し、サービスセンターの廃棄物まであさったというエピソードも。

田中「入社当初はプラスティックケースのモデルを担当していました。初めてデザインしたのは、ハイブリッドと呼ばれたデジタルとアナログが一体化したモデル。その後担当したUC2000という腕型コンピュータは、2018年国立科学博物館主催の『明治150年記念 日本を変えた千の技術博』で取り上げられました。これがヒットして、ご褒美に1988年のスイスのバーゼルフェア(現バーゼルワールド)に行かせてもらい、そこで本場の老舗が作る機械式腕時計を目の当たりにしたのです。やはり時計はこれだよな!と衝撃を受けて、機械式への想いがつのったのです」

帰国してからは、なんとか機械式腕時計を製作する術はないのかと模索する日々。当時、会社は、彼の想いとは異なり、クオーツでのビジネス拡大を最優先させていた。

クオーツ一辺倒だった時代に、あえて機械式


田中「機械式をなんとかやりたいと思い、企画書を作って、プレゼンテーションさせてもらったんですけど、1年以上まったく相手にされませんでした。当時の経営者には目の前で企画書を破られたりもしたんです」

それでも粘り強く企画書を提出し続けた田中氏の想いが経営陣に届き、製作が決定する。それがセイコー創業110周年記念(1991年)に向けて製作された、キャリバー6810を載せたモデルである。

田中「製作が決まったのは嬉しいことでしたが、セイコーはしばらく機械式の製造から離れていたので、サービスセンターに行って必死で古い68ムーブメントを探しました。いくつかあったのですが、ピンホールの錆が出ていたので使えず、すべて作り直しになりました。でもこの時、部品が使えなかったことが、後の部品作りの再生につながっていったのだと思います」

この記念モデルは、発売前にほぼ予約で完売となり、ほとんど店頭に並ばなかったという。そして、この成功が1996年のスケルトンウォッチ誕生へとつながっていくのである。


1996年に発売された初のスケルトンウォッチ。風にしなる竹をイメージした極薄機械式ムーブメント「キャリバー6899」で、日本の美を表現した。

その田中氏が機械式腕時計の再興に向け、懸命に取り組んでいる時期に入社したのが、ムーブメント設計者の重城幸一郎氏である。

より薄く、より強く、より美しく


設計者が新製品を1人で設計できるようになるには、10年弱くらいかかるという。だが重城氏は5年にも満たない頃に、スケルトンウォッチのキャリバー6899の設計を手掛けている。年数的にはまだ修業の身。機械式の技術的知識がまだ浅い上に、初めてのスケルトンウォッチだった。

重城「これだけ薄い製品は見たことがありませんでした。非常にきれいな製品なので、手を加えることによって完成したものを壊すようなことをしてはならない、と。レイアウトを変えることすら、当時は経験がなかったので、怖かったですね」


重城(じゅうじょう)幸一郎氏はセイコー電子工業(当時)のムーブメント事業部時計設計部に1991年に入社。眠りからさめた機械式ウォッチの設計に一貫して関わり続ける。

ただ、幸運だったのが、設計に使用するCADシステムが二次元から三次元に切り替わる時期だったことだ。平面でなく、空間で構想することができる三次元CADは、スケルトンウォッチに適したツールだった。とはいえ、設計面で気を遣う点がなくなったわけではない。

重城「セイコーの製品は品質や信頼性に対して、とても期待値が高いので、壊れたら駄目なんです。ムーブメントを露わにして透けさせるには、個々のパーツを細くすればいいのはわかるのですが、それだけだと絶対に強度がもたないので、できるだけ透けるように、でも強度は保てるように、というバランスをとるのが大変ですね」

重城氏たち設計者は製造部門に全幅の信頼を置いており、それが設計でギリギリのラインまで踏み込むことを可能にしたという。

重城「キャリバー6899は、設計的には限界まで寸法を追い込むということをしています。この薄い部品に彫金を施せる技術。それがあるからこそ、これほどまでに美しくなるのです。そこは、特に伝えたいところですね」

髪の毛3本の厚みに彫りを刻む絶技


そして、スケルトンウォッチの核心であり、重城氏たち設計陣が全幅の信頼を置いているのが彫金工房である。そこには現代の名工、照井 清氏がいる。彼がいるからこそ、設計をギリギリまで攻められるといっても過言ではないのである。実際にクレドールのスケルトンウォッチを手に取ればわかるのだが、圧倒的に美しい。


照井清氏は1970年、第二精工舎(当時)に入社。2002年、栄誉ある「卓越した技能者(現代の名工)表彰」を受賞。2007年、黄綬褒章を受章。

切削や研磨、金無垢ケースの製造、ジュエリー製造を経て照井氏が彫金に初めてたずさわったのは1995年。翌年にスケルトンウォッチを製作するタイミングに合わせ、彫金技術を習得することになったという。照井氏はオリジナルのバイト(彫刻刀)を自ら製作し、彫金に臨んだ。一般的なバイトで彫っても、彼が望む品質にはならないからだ。

照井「スケルトンムーブメントのパーツの厚みは、一番薄いところで0.25mmです。大体髪の毛3本分くらいですね。薄いので、普通のバイトで彫ると、裏に出っぱったり突き抜けたりするんです。だから浅く彫らなきゃいけない。浅く彫ると、普通は模様が薄くなって見えなくなりますよね。それを見えるようにし、高い基準を満たさないといけない。そうしないと彫っても眼に入ってこないんです」


照井氏が両面に桜の彫金をほどこした「クレドール シグノ メカニカルスケルトン 彫金モデル GBBD961」。淡いピンクの薄浮彫になった桜は、彫刻した白蝶貝をはめ込んでいる。

そんな超絶技巧を駆使したスケルトンウォッチも、一般的にはまだまだ馴染みがない。照井氏は、市場拡大のために、と、毎年新たな手法を考案し、商品企画部に提案し続けている。その成果として誕生したのが、透かし彫り、立体彫金、貝彫りである。それも照井氏にしかできない世界最高レベルのものだ。


真鍮の板材に鳳凰を彫金する照井氏の手元。鋭い刃先のバイトで彫られた線が、キラリと光をはじき返す。軽やかに彫りを進めていくが、ひと筋でも彫り違えたらやり直しはきかない。

一人前の彫金師になるには最短でも4年かかる


そんな照井氏の元には、今、3名の若者がいる。そして、未来のクレドールのために技術の継承に励んでいるのだ。ただ、“照井流”は厳しい。クレドールに求められる理想の品質を実現しようとひたすら腕を磨くうち、彼の技ははるかな高みに至っていたからだ。彫金を始めた当初から謹厳だった職人魂は、4半世紀の歳月を経て、さらに厳烈なものになっていた。その魂の眼が、若者たちにも注がれる。

照井「うちでは一人前になるのに最低でも4年くらいかかります。それくらい修業して、やっと製品にさわることができるんです。修業期間中は毎日同じことの繰り返しで、1年くらい続けると一般的な彫金師としては十分なレベルにはなるんです。でもうちでは、まだちょっと無理ですね」

修業する若者たちに、彫金に、そしてクレドールに愛があるからこそ、その眼は厳しくなる。それは今後も高いレベルで照井流が継承され、進化し続けて欲しいと願うからである。

照井「クレドールでしか見られないとお客さまにおっしゃっていただけるものを、彼らには絶えず目指してほしいと思っています。発想力をどんどん磨いて、ぼくの想像を超えるものができれば最高ですね」


後進を指導し、技を伝えるのも大切な仕事。彫金の仕事に魅力を感じた若者たちが、照井氏の開発した技術と、ものづくりの精神を受け継いでいく。

ある一流レストランのシェフが、料理はチームワーク。どこかの歯車が一つでも欠けると、絶対に美味しい、いい料理はできないと言っていた。時計製作もまったく同じであろう。このスケルトンウォッチにおいても、企画者、設計者、彫金師など、多くの人々の想いや技術が融合したからこそ、高いレベルで現代に継承されているのだ。

来年25周年を迎えるクレドールのスケルトンウォッチ。その歴史は時計の魅力でもある。進化し続けているからこそ、伝統は受け継がれる。つまり、クレドールのスケルトンウォッチは、常に進化してきたからこそ今があるのだ。それは、これからも変わらず続いていくことだろう。



クレドール シグノ メカニカルスケルトン 彫金モデル GBBD961
吉野山の桜をモチーフにした彫金を表裏にあしらった。極薄機械式ムーブメント「キャリバー6899」を搭載。

手巻き機械式。K18WG、白蝶貝。クロコダイルストラップ。ケース径38.0mm、厚み7.3mm。4,400,000円(税別)
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クレドール リネアルクス ラグジュアリースケルトンモデル GBBD955
せせらぎをテーマにした流水紋様を彫金。新開発の構造で、極薄機械式ムーブメント「キャリバー6899」が宙に浮いているかのように見える。2020年新作。

手巻き機械式。PT、ダイヤモンド。“京都レザー”箔押しアリゲーターストラップ(黒のクロコダイルストラップも付属)。ケース径38.0mm、厚み7.7mm。7,000,000円(税別)
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クレドール リネアルクス ハーフスケルトン限定モデル GBBD953
豊かな水に恵まれた日本をイメージ。流れる水が生み出す情景を、極薄機械式ムーブメントに彫金したハーフスケルトンモデル。2020年新作。

手巻き機械式。PT、ダイヤモンド。“京都レザー”箔押しアリゲーターストラップ(黒のクロコダイルストラップも付属)。ケース径38mm、厚み7.4mm。6,500,000円(税別)。
詳しくはこちら。


クレドール リネアルクス スタイリッシュスケルトンGCBD999
ここまで削るか、というくらいに過剰さをそぎ落とした2020年の最新作。ブラックのムーブメントに赤いルビーのコントラストが鮮烈。

手巻き機械式。SS。クロコダイルストラップ。ケース径 38mm、厚み 7.7mm。1,600,000円(税別)。
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問い合わせ:セイコーウオッチ お客様相談室(クレドール) 
☎︎0120-302-617
www.credor.com


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Promoted by クレドール / text by Ryoji Fukutome / photos by Ryoichi Yamashita (Battuta) / realization by Keiko Homma

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