大人が最優先で学び直すべき科目は「美術だ!」と、提案する人がいる。美術教師であり東京学芸大学個人研究員、そしてアーティストの末永幸歩だ。藤原和博(元奈良市立一条高等学校校長)らが「美術は『思考力』を磨くための教科だったのか!とわかる本」と称賛する末永の著書『13歳からのアート思考法』を開いてみた。
我々が失いつつあるもの
なぜ13歳なのか。その理由は小中学生に調査した「好きな科目」で、小学校で第3位の人気を誇った図工が、中学生になると美術の授業に変わって人気が急落、下落幅は全教科で最も大きかったからだ。13歳という中学生になるタイミングで、美術離れが始まっているのだ。
中学生の美術で何が行われるか。多くの学校では、絵を描いてものをつくる「技術」と、過去の芸術品に関して「知識」に重点をおいていたかと思われる。
「こうした授業スタイルは、一見するとみなさんの創造性を育んでくれそうなものですが、じつのところ、これらはかえって個人の創造性を奪っていきます」(『13歳からのアート思考法』より)
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私たちは気づかないうちに創造性を失い続けているのだ。創造性を失うなか、思考はどうなっているのだろうか。いまは、情報があふれる時代、ネットニュースで表面的に理解し、SNSで「いいね」を押して終わりにする。よくある日常のシーンだ。
目の前のニュースに深く考えることもなく、スクロールしては、次のニュースを消費する。その行為の中には主体的に何かを考えて、何かを創造するという行為が含まれていない。美術離れが起こり、創造性を失った大人たちが、自分だけのものの見方や考え方を喪失し、自分なりの視点を持てないようになっていることに、末永は課題感をもっている。
ある子供が出した「彼なりの答え」
同書ではある例え話をあげている。モネの代表作の一つ『睡蓮』だ。水生植物の睡蓮を題材に描いた一連の絵画で、美術館でなくとも教科書で一度は目にしたことがあるだろう。