労働法研究者の多くは、雇用主が応募者に対して前職の給与金額を尋ねた場合、人種、宗教、性別、国籍、年齢、障害の有無による給与の格差が前職から引き継がれてしまうと考えている。そのため賃金の平等を訴える人々は近年、採用プロセスにおいて過去の給与額を問うことを禁止すべきだと主張し始めた。
マサチューセッツ州は2018年、雇用者側が内定を出す前に応募者の給与歴を聞くことを全米で初めて禁じた。以降、米国ではさらに18州が給与歴に関する質問を禁じ、さらに21の地方自治体も禁止条例を制定した。
ボストン大学法科大学院の研究チームは、労働市場分析企業や労働統計局、国勢調査局が収集したデータを用い、給与歴の聴取が禁じられている郡と禁じられていない郡の給与を比較した。対象となった郡は隣接し、同一労働市場内にある。
結果、給与歴の聴取が禁じられた郡では、求人の際に賃金情報を公表する雇用主が増え、さらに転職者の給与にも大きな変化が生まれたことが分かった。特に女性と黒人にとっての変化は大きく、給与水準の上昇幅は転職者全体で5%だった一方、女性は8%、黒人は13%だった。
研究チームは、今回の研究は景気が比較的良好な時期に行われたため、経済見通しが悪い時期でも給与歴聴取の禁止が同じ効果を発揮するかを確かめる研究が必要になると指摘した。また、禁止措置の具体的な内容は州や自治体ごとに違いがある点も重要だ。
とはいえ、今回の研究結果は、給与歴聴取の禁止を提唱する人たちにとって追い風となる可能性があり、検討の価値があることは間違いない。