第一次大戦後、スペイン風邪が収束し、街も落ち着きを取り戻し、景気が上向いた「ローリング20s」と言われた1920年代には、GMやクライスラーの車がフォードのシェアを奪い、業績を伸ばしていた。
1929年、大恐慌が起こる直前のニューヨークでは、いまはトランプ・ビルディングとなっているバンク・オブ・マンハッタン・トラスト・ビル(71階)とクライスラービル(77階)が、世界一の高さを競い、互いに設計変更を繰り返しながら、建設中だった。
バンク・オブ・マンハッタン・トラスト・ビルの建築には日系人のヤスオ・マツイが関わっていたが、このビルが完成した2カ月後、クライスラービルは密かに56.5mの尖塔を用意しており、10月23日、それを頭に頂いて最終的に世界一高いビルとなった。
トランプ・ビルディング(旧バンク・オブ・マンハッタン・トラスト・ビル、Getty Images)
しかし、その翌日の24日、株式市場の大暴落(ブラックサースデイ)が起こり、金融市場がクラッシュして、大恐慌が始まった。
1973年には、ニューヨークのワールドトレードセンターと、シカゴのシアーズタワーが世界一の高さを競って建設されていたが、そのさなかの1973年から74年にかけて、ダウは45%下落した。
ワールドトレードセンターの設計にも、日系人ミノル・ヤマザキが中心となって携わっていた。当時、彼の建築事務所で働いていた知人が、9.11の後に、「わずか28年で、あのビルがなくなってしまうとは」という喪失感とともに、呆然としていたのを覚えている。
摩天楼と景気の関係とは
高層ビル建築については、Oculus Research Asia社のアンドリュー・ローレンスが、スカイスクレイパー(摩天楼、高層建築)の建設と景気の波とを相関づける、スカイスクレイパーインデックスを提唱している。それによれば、高層建築の建設が盛んになった後には、必ず景気は下落するという。
詳しく説明すると、景気が上向いてくると失業率も下がり、オフィス需要や投資意欲も伸びるので、新たなオフィスや住居スペースが必要となり、余ったお金が株式に流れ込み、建設ラッシュが始まる。建設には時間がかかるので、その間に景気が天井を打ち、やがて景気が悪化し、ベアマーケット(弱気市場)となり、クラッシュが起きるというわけらしい。
ニューヨークではないが、2008年には、ドバイの世界一高い高層ビルであるブルジェ・ハリファが、828mの高さをめざして建設中に、リーマンショックが起こり、ダウが777ポイント下落した。
リーマンショックから回復後は、2020年まで12年にわたる歴史上最長のブルマーケット(強気市場)が続き、大きなクラッシュもないままに過ぎていた。その間、世界一の高さのビルとして、サウジアラビアのジェッダでジェッダタワーがマイルタワー(約1600m)をめざして計画されたが、地盤の強度の問題で1008mに設計変更されたまま、いまだ建設中で完成が延びている。