CEO・十河宏輔が「創業4年でアジア各国に17拠点という急成長は、テクノロジーなくしてはあり得なかった」と断言する、生粋のテックドリブン/データドリブン企業である。ビジネスを加速させるために彼はテックとどう対峙しているのか、話を聞いた。
インターネットというテックを手に入れた時点で、国境は消えている
「ひとつのテクノロジーが、あまねく世界で活用されるのが現代です。GoogleにしてもFacebookにしても、そのテックはグローバルで浸透していきます。私が前職のマイクロアドでアドテクに関わり始めたとき、すでに世界各国を商圏とすることが大前提でした。
少なくともベトナム、タイなどASEANを前提としてビジネスを考えるべきだというリテラシーが、自分の中にはあったのです。
だからAnyMind Group設立時も、日本国内ではなく、アジア全体でもっとも起業に適した候補地を選びました」
テクノロジーはまず、なくてはならないもの。しかしビジネスとして成功するためには、どれだけテックに対するリテラシーを高め、駆使していけるかが、ポイントだと彼は言う。
「ビジネスで国境など考えないほうがいい。現代のテクノロジーでは、日本の製品でも必要があれば、米国にDOOH(屋外デジタルサイネージ広告)を打つことも可能です。
AnyMindのブレイクポイントとなった「CastingAsia」というプラットフォームを筆頭にしたインフルエンサービジネスは、アジア17の国と地域で展開しています。商圏が広いということはそれだけ多くのデータを得られるということです。データドリブンを標榜するなら、このメリットを見逃してはいけません。
レガシーな企業ならまだしも、スタートアップなどの若い企業なら、一刻も早く、視野は世界に向けるべきです。
なぜならデータは、溜まれば溜まるほど強固になるものだからです。データの強度が高まれば、さまざまなマッチングの精度が上がる。キャスティングアジアなら、インフルエンサーと広告主のより適切なマッチングが可能になっていく。
もちろん最初からパーフェクトを得られないのも、データドリブンのビジネスの特性です。データの蓄積があってこその、最適化なのですから。
蓄積が事業クオリティに貢献し、ビジネスは自然にグロースしていく。それがテックドリブン、データドリブンの時代のビジネスのあり方なのだと思います」
十河の言を聞けば、いいことづくめに感じられるデジタルマーケティング。そこにマイナスは存在しないのか。
「広告というビジネスにおいて、効果が見えるというメリットほど素晴らしいものはありません。もちろんアドフラウド(不正広告)のリスクはありますが、それもテックで解決できるものですから、不安に感じてはいませんね」
それよりも彼が気にするのは、グローバルの中での日本市場の特異性だという。
「インターネットの世界では、基本的に地域格差というものは生じないのですが、アジア全体を見たとき、日本市場は少し変わって見えますね。ローカルな企業が非常に強い。これは中国にも当てはまることですが。
また、日本には独自のローカルメディアも多数存在している。そうしたリアルの現状とともに、テックをコントロールしていくことが大切です。ローカライズとは言語を翻訳するだけでなく、そうしたきめ細かい文化の違いも意識する必要があるのです」
本田圭佑氏も参画するインフルエンサービジネスが革命を起こす理由
テックが進化すれば、事業も足並みを揃えてジャンプする。AnyMind GroupはDOOH(屋外デジタルサイネージ広告)も革新した。
それまで効果を可視化することが難しかったそれを独自のテック活用で見える化することに成功したのだ。つまりより精緻なユーザーデータを得ることが可能になり、単なるデジタルで書き換え可能なカンバンではない、次の領域にステップアップさせたのである。
さらに彼の視野は、デジタルだけを見ていない。テックをどうリアルに着地させるか、それがいま、もっとも彼の心を捉えていることだという。
「本田圭佑氏の参画で話題となった、ユーチューバーなどクリエイターによるインフルエンサービジネスは、大きな転換点となりました。彼らを例に取るとわかりやすいのですが、彼らの収入源は、動画再生によるフィーと、企業とのコラボレーション広告によるフィーの2種類でした。
どちらもそのベースには広告があります。もちろんそれも正しい。でも彼らの未来を考えると、他の可能性を提示したくて、たまらなくなったのです」
それがインフルエンサーのブランド化である。それぞれの存在をブランドとして、グッズ販売などのECを展開することのできる素地を、十河はつくり上げたのだ。
「ネームバリューのあるインフルエンサーは、それ自体がブランドです。それならオリジナルの商品展開を可能にできないかと考えたのです。広告収入だけでは長続きしないので、独自の商品ブランドを立ち上げる可能性を追求しました。
それがものづくりです。商品はクリエイターそれぞれの特徴を生かして、アパレルであったり、コスメであったり、なんでも自由に開発してもらいます。
そこから先の生産に我々はタッチします。これまでの東南アジア事業で知ることのできた優秀なものづくりができるベトナムやタイなどの工場を、彼らとつなぐのです。いまでは中国よりも安価で高品質な製品生産が可能になっていますから。
まずは、商品サンプルを依頼して、品質と原価を確認していただいてから、生産管理、ECサイト販売、そして収益を得るところまでAnyMind Groupのシステムがカヴァーします。
広告のみに頼らないビジネス展開という選択肢を、我々はこれで彼らに提供することができるのです。これこそデジタル×リアルの真の融合ではないでしょうか」
プロフェッショナルな知見を外部に求める勇気
さまざまな分野で革新を起こし続けるAnyMind Groupだが、そこには社内だけの知見に頼らない柔軟性も備わっている。実際に外部のプロフェッショナルをアドバイザーとして迎えており、ビジネスをグロースさせているのだ。
「データドリブンであるために必要なのは、データをどう扱うかということです。それを社内リソースですべて賄おうとは、はじめから思っていませんでした。データの本質は、絶対に見誤ってはいけない。だからプロフェッショナルの知見が必要なのです。
これからも我々は事業を拡大していきます。そのときに、自分たちだけで何もかも解決しようとすれば、可能性自体が狭まってしまいます。
テクノロジーはあらゆるものへのアクセスを可能にしてくれるもの。我々は外部の力も借りて、本質的な価値は何かを見極め、国境も事業領域も超えた新たな可能性をこれからも追求していこうと考えています」
そんなテックネイティブともいうべき十河に、最後に若いアントレプレナーにメッセージをもらった。
「勇気と覚悟、それとストレスを受け入れる決心があれば、起業は可能です。リスクも思うほどは高くありません。私はとくに、いろいろな経営者を見てきた投資家の意見が参考になりましたね。
あとひとつ、若いスタートアップや、スモールビジネスの起業家に言えることは、社内のWi-Fi環境などのICT導入やバックオフィスなどの構築、これはなるべく早い段階で、ITのプロフェッショナル等に委ねたほうがいい。
これは人数が限られている中小やスタートアップにこそ、言いたいことです。
私は起業当初、そうした面も自力で作業しましたが、これはビジネスの成長のためには回り道です。いまでは後悔していますね。そこを自力でやらなければ、自分というリソースをビジネスのコアに最大限振り当てることができ、もっとグロースが早かったのではないかと。
使えるものはすべて使い、自分たちのリソースは、核となる重要なことにだけ振り当てることで、事業の成功精度も高まるはずです」
十河宏輔(そごう・こうすけ)◎AnyMind Group CEO。 マイクロアドにて新卒3年目にしてベトナム支社を立ち上げ。その後もシンガポールなどアジア5カ国の立ち上げに参画、2015年に史上最年少の取締役に就任。 16年AdAsia Holdings Pte. Ltd設立。18年AnyMind Group設立。東南アジア全体を商圏としてビジネスを展開している。
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