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2020.06.24

在庫が宝になる。吉田焼の成功に見る「マイクロツーリズム」の未来

(C) 肥前吉田焼窯元協同組合

コロナ期における新しい旅のあり方として「マイクロツーリズム」というものがあります。ワクチンができるまで、大きな移動はウイルスの感染拡大や罹患リスクがあるので生活圏+アルファの範囲内の地元を旅しようというもので、星野リゾート代表の星野佳路さんが提案しています。

地元旅なんて、移動できない状況ゆえの苦肉の策にすぎないと、テンションが上がらない方もいるかもしれません。実際、日頃から慣れ親しんだ地元をみて何が楽しいのだ、という声もよく聞きます。しかし、意外とそうでもないのです。東京に住んでいる人が意外と東京タワーに行かないように、地元の人は身近すぎて行かなかったり、近くの「魅力」に気がつかないものです。

佐賀県嬉野市で大人気の「トレジャーハンティング」はまさにそれでした。

商社の倉庫でお宝探し「トレジャーハンティング」


佐賀県の嬉野市には「肥前吉田焼」(以降、吉田焼)という器の産地があります。市街地から車で15分ほどの小高い丘の上にある小さな集落です。この産地の経済は最盛期の8分の1程度の規模。かつては30社ほどあった窯元も現在では8社という大変な状況です。そのうちの一社、ヤマダイさんの倉庫には、もう売れないと見限られて放置され、しかし廃棄するにも産業廃棄物として処理に費用がかかる「お荷物的」な存在と化した在庫が山となっていました。


奥まで器が詰められた棚に置かれた食器の数々

薄暗い蔵に入って、そこにそびえる皿の山をみた時のワクワクしている部外者がいる一方で、その顔を不思議そうにみている経営者。「こんな古いものは売れない」とか「数が揃わない半端モノだ」とか、「ホコリまみれ」などと言います。

しかし「この器、とても素敵ですね」と話しかけると、まんざらでもない表情で「この器はね、明治時代のもので、ほら、ここを見てください。これは今の技術じゃ、作れないものですよ」というのです。「吉田では、袋ものと言われる、土瓶や丼ものをメインで作っていたんです。こちらの丼は、数十年前まで吉野家の牛丼で使われていたものですよ」と、嬉しそうに語るではないですか。

気乗りしていない経営者を、失敗しても大したリスクではないからやってみようと説得し、あるサービスを開始しました。投資額は数千円といったところでしょうか。軍手と懐中電灯を用意し、ホームページや看板は東京でデザイナーをする息子さんに作ってもらいました。

こうして蔵を丸ごと解放し、膨大な器の山々の中から、自分好みの器を1カゴ5000円で販売する「トレジャーハンティング」が始まりました。

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文=南雲朋美

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