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2020.06.24

在庫が宝になる。吉田焼の成功に見る「マイクロツーリズム」の未来

(C) 肥前吉田焼窯元協同組合


最初の顧客は、地元の商店街組合、旅館組合、観光協会などの皆さん。オープン前に地元の人だけを割引価格でご招待しました。取材も地元のメディアのみ。地元の告知を注力したのは、地域の方がおもしろいと思えば、「いま面白い企画があって……」と当事者に代わって「広報」をしてくれると考えたからです。

温泉地である嬉野には旅館や飲食店も多いので、そこには観光客もきます。その人たちにパンフを渡してもらいたかったのです。もちろん、彼らが仕事として、一般家庭よりも器を多く使うという読みもありました。

こうしてはじめたトレジャーハンティングは大盛況。経営者を悩ませる在庫たちが、店の経営を支える主軸になりました。

当時のお客様は、ほぼ近圏の方ばかり。そのほとんどが、この土地に来たことがない方でした。同じ市内にいながらも、この地域に足を踏み入れたことがなかったのです。彼らは、トレジャーハンティングの前後に、網の目のように張り巡らされた細い路地を歩きまわり、古い建物や、畑に埋もれた磁器の破片、物置からはみ出す器や道具などを興味深げにみていました。


周遊してもらうためにトレジャーハンティングまでの道は、あえて遠回りに設計

観光コンテンツは自然や文化財だけではない


トレジャーハンティングがうまくいったのは、伝統工芸的な産業だからでしょう? と思われる方もいるかもしれませんが、そんなことはありません。たしかに焼き物は地域色の高い産業ですが、そうでなくても、たとえば農業や漁業、鉄鋼所でも充分楽しめます。子どもの頃、親の仕事場や社会科見学で工場をみてワクワクしたこと記憶はないでしょうか。



人の仕事場は、まさに非日常です。見たことがない道具や機械が溢れていて、そこはまるでワンダーランド。やっている人にとってみれば「これ(自分のやっていること)のどこが、おもしろいの?」と思われるかもしれませんが、他人には魅力的に映るものなのです。

観光の語源は一説によると古代中国『易経』にある「観国之光、利用賓于王」の一節にあると言われています。「光」とは「知恵」のこと。つまり、観光とは地域の魅力を見ることなのです。自然や文化財だけを観光のコンテンツにしておくのはもったいない。近い将来、県外からの観光客やインバウンドは必ず戻ってきます。その日までに地元観光のコンテンツを増やすチャンスが今なのです。

連載:旅する“元”広報
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文=南雲朋美

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