昨年、IR関係者の中で話題になったランキングがある。米国金融専門誌『Institutional Investor』が2013年から毎年発表している日本のベスト企業ランキングだ。驚きだったのは、その「The 2019 All-Japan Executive Team」のランキングに大企業が軒並み名を連ねる中で、売上高100億円未満で、時価総額約1200億円規模のスタートアップであるマネーフォワードが唯一入ったという点だ。
「中小企業でランクインするのは極めて珍しい。企業の経営指標に対する要求水準が高まり、比較対象がグローバルになった『海外投資家の見方』の変化が要因と言える」と話すのは、みずほ証券コーポレート・ファイナンス部IR戦略室長の田中裕喜だ。このランキングは、日本の上場企業の中で最も優れたIR活動を行う企業が選出されるもので、19年は世界の機関投資家を含むアナリスト900名以上の投票によって決定されている。なぜマネーフォワードは評価されたのか。
そもそも、海外IRの必要性は昔から指摘されてきた。ただ現在、グローバル全体の運用資産、約70兆ドルのうち、日本が占める割合はわずか8%未満に過ぎず、グローバル市場における日本株の存在感はますます薄れつつある。一方、日本株の売買のうち70%以上が海外投資家によるものだという事実が存在する。つまり、日本企業が投資を受けるためには、海外にアピールをする、すなわち海外IRを徹底していかなければ生き残れないという厳しい状況にあるのだ。
もちろん、海外の株主による保有が増加していくという環境に即し、日本企業はROE(自己資本利益率)向上や、女性活用、CSR(企業の社会的責任)など非財務情報の開示などを求められてきた。それに伴い、日本企業のIRのクオリティは徐々によくなってきており、事実、海外投資家からの評価も上がってきている。しかし、昨今、デジタルテクノロジーの発達などにより、時代は急速に変わっている。また、イノベーションの創発が世界各地で起き、既存のビジネスが消滅し、新たな市場やルールが台頭している。
そんな時代、「『企業価値向上』や『株主価値向上』、それを実現するための、認識すべき資本コストやキャッシュフローの創出、還元という考え方は変わらない。ただ、従来型のIRでは追いつかなくなった」と一般社団法人日本IR協議会の佐藤淑子は指摘する。では、いま、海外機関投資家が日本企業に求める要件とはどんなものなのか。