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久山:2010年に刊行されたオルセン教授の『パンデミック』は、まるで予言の書でしたね。未知のウイルスに襲われれば「今までは当然だった社会が一時的に機能を失い、短期間で劇的に変化した世界で私たちは目を覚ますことになるだろう」と。人口増加による自然破壊、それにより動物と近く暮らしすぎることで人間が感染症にかかる危険性が書かれていました。

高見:感染症は、家畜やペットなど、動物と近く暮らすようになったときから始まっています。肉と牛乳だけを得るために牛を飼っても、病原菌も必ず一緒についてくる。感染症の70%が動物由来で、新型コロナウイルスもコウモリから動物を介して人間にうつったという説が一般的です。

まだ、今回の新型コロナウイルスの発生源かどうかはわかりませんが、武漢の生鳥・動物市場が代表するように、様々な野生動物を売買する市場は、動物を宿主とするウイルスが種を超えてヒトに感染する温床になっている、そのことは多くの感染病の研究者が指摘しています。過去には、そのような野生動物を売買する中国の市場からSARS重症急性呼吸器症候群や鳥インフルエンザが発生し、豚インフルエンザはメキシコの家畜福祉とは程遠い巨大な豚飼育農場で発生しています。

オルセン教授も「肉食を減らし、家畜福祉を向上させ、そして生物の多様性を守る」ことをしないと、今回の新型コロナウイルスはあくまで予行練習で、もっと大変なパンデミックが起きるのは時間の問題だと警告しています。

久山:生物の多様性の崩壊がなぜ人間の感染につながるのか、オルセン教授の著書にもわかりやすい事例がありました。例えばネズミの天敵がいなくなってしまうと、ネズミが増えすぎ、餌がなくなって、飢餓状態に陥ることで免疫力が下がり、その体内で今までは大人しくしていたウイルスが活動を始め、他の種にもうつる。最悪の場合、それが人間にも及ぶというプロセスです。

高見:ええ、生物の多様性こそが、自然界およびそれに依存している人間社会のレジリエンス(ストレスへの抵抗力)なのです。今、世界の人口が増え、肉の消費も増え、家畜とその飼料栽培のために自然がどんどん破壊されていますよね。顕著な事例が熱帯雨林の破壊です。それによって野生動物と人間の接点が近くなると同時に、野生動物に大きなストレスを与えているんです。国連報告書によると、今後数十年で、100万種の生物が絶滅する恐れがあるそうです。

久山:そんなに! そしてそれが感染症が発生しやすい状況にもつながるんですね。

高見:家畜にしても、何万頭もがぎゅうぎゅう詰めに飼われている状況で、ストレスで免疫力が下がることは容易に想像できます。病気にならないように抗生物質を与えることで、抗生物質耐性もグローバルな問題になっています。特に牛は、反芻のさいにメタンを出すため、地球温暖化にも大きく加担しているんです。そして、地球温暖化の影響でさらに多くの生物が絶滅に追いやられています。

肉食が健康にも環境にも悪いという意識が高まった近年、スウェーデンでは若い世代がトレンドを作っていますね。調査によれば、15~24歳の15%がベジタリアンかビーガン。大人も含めると15%が野菜がメインの食事、5%がベジタリアン、2%ビーガンだそうです。

久山:今は大手ファーストフードのハンバーガー店でもビーガンメニューが用意されてますよね。これから肉食を避ける若者が、もっと増えていきそうな雰囲気です。

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ウプサラ大学の感染症の教授で上級医師のビョルン・オルセン(Björn Olsen)氏(写真:anlib.se)

ポストコロナ社会のビジョンと戦略とアクションの模範事例


高見:これから世界各国が、コロナの影響を受けた企業を救済し、不況から復興するために戦後最大規模の投資をしようとしています。しかし、成功後の姿を想像できるような持続可能なビジョンがなければ、元の黙阿弥です。また、パンデミックが起きる可能性や、それ以外の人類の生存を脅かす危機にも直面するリスクが高まります。

久山:コロナ危機からの復興と気候危機からの脱却を、同時に達成できるようなビジョンやアクションプランを立てている国はすでにあるのでしょうか。

高見:はい、欧州連合とスウェーデンの事例をご紹介したいと思います。

文=高見幸子・久山葉子 構成=石井節子

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