経済・社会

2020.06.07 12:30

「はい、逮捕」と冤罪に巻き込まれた男性。警察署長は会見でしらを切った|#供述弱者を知る

連載「#供述弱者を知る」サムネイルデザイン=高田尚弥

連載「#供述弱者を知る」サムネイルデザイン=高田尚弥

滋賀県の呼吸器外し事件の被疑者にされた西山美香さん(40)の虚偽自白は、刑事に脅されて「アラームが鳴った」と言わされた、2カ月前の嘘がきっかけだった。すべての起点がそこにある、と考えた角雄記記者(37)は公判資料を再点検していくうちに、この事件の中で埋もれていた「もうひとつの冤罪事件」に行き着いた。
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掘り出されたその事件は、西山さんを取り調べたのと同じ刑事による、正真正銘の冤罪事件だった。便意をもよおし、差し迫った状況を訴える人に「やった」と自白するまで許さない。いったい、これはどこの国のいつの時代の話なのか。そう思わせる極め付きの内容だった。

前回の記事:埋もれていた、もうひとつの冤罪事件。暴行して自白させた刑事

もうひとつの冤罪事件の被害者の陳述書を読み終えた私は、角記者に言った。
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秦「本当にひどいな。迎合とか、誘導とかといった生やさしいものじゃなくて、もはや拷問と同じだな」

角「トイレにも行かせないんですからねえ」

秦「こんなこと、今の時代にやっているなんて、信じられんな」

角「西山さんの裁判を地裁でやっている最中の出来事です」

秦「しかも、『はい、逮捕』って、何だよ」

角「一丁上がりって感じですよね」

西山さんの事件で捜査の不当性を伝える記事を書く上では、これも欠かせないネタになると予感した。

冤罪から12年、男性の思いはいま


ただ、すぐに取材に手が回らず、男性にコンタクトしたのは、私と角記者が大津支局で打ち合わせてから約1年後。その後取材班に加わった大津支局の成田嵩憲記者(32)が被害男性と接触できたのは2017年10月のことで、大阪高裁で再審開始決定が出る、少し前のことだった。

私のメールボックスには同年10月31日に届いた成田記者からのメールが残されている。

「秦さま、角さま、お疲れさまです。『はい、逮捕』された被害者○○さんの連絡先が分かりました。近く取材もさせてくれるそうです。自宅で義父から聞き、本人とも少し電話で話しました」

男性の自宅は、車で高速道路を飛ばしても片道1時間20分、往復で3時間近くかかる。大津支局の記者にとって、日常業務と調整しながらその時間をつくるのは一苦労だ。すぐに成田記者に電話した。
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文=秦融

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