「はい、逮捕」と冤罪に巻き込まれた男性。警察署長は会見でしらを切った|#供述弱者を知る

連載「#供述弱者を知る」サムネイルデザイン=高田尚弥


有罪立証のため、関連づけられてしまった2つの事件


この事件に関連する過去記事を中日新聞のデータベースで検索すると、この事件では、滋賀県警は最初から最後まで「自白の強要」を認めていなかった。呼吸器事件の法廷が進行中の2005年に起きた「もうひとつの冤罪事件」のおさらいをすると、経過はこうだ。

【5月31日】西山美香さんの調書の信用性をめぐり、法廷でA刑事が尋問される

【6月3日】 A刑事が男性の胸ぐらをつかみ、蹴る暴行の上、排便を許さず「やった」と虚偽自白を強要し、逮捕

【6月9日】 誤認逮捕を発表。署長が「自供の強要の事実は確認していない」とコメント ※暴行、排便させなかった事実を隠す

【7月14日】滋賀県警がA刑事の書類送検を発表。暴行は認めるが、県警は「自供は暴行に基づくものとは認められず、捜査手続きに問題があったわけではない」※排便させなかった事実は隠す

【11月28日】A刑事の起訴猶予処分を発表(*1)

【11月29日】大津地裁で西山さんに懲役12年の有罪判決

*1:起訴猶予処分とは、不起訴にする理由のひとつ。起訴をすれば有罪となるが、被疑者の性格、年齢及び境遇などにより訴追を必要としない。

事実の隠蔽を重ね、自白の強要を認めず、刑事処分の公表は、判決に影響がなくなる前日まで引き延ばしている。なぜなら、同時進行で裁判が進んでいた西山さんの事件は、このとんでもない札付き刑事が作成した供述調書だけが、有罪主張の支えになっていたからだ。供述調書の信用性が争われている西山さんの裁判のまっただ中で、2つの事件を関連づけられ、裁判に影響することを県警がいかに恐れていたか、ということだ。

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男性の前では土下座をしたが、メディア向けには事実を隠した。それはなぜか(Shutterstock)

誤認逮捕が分かった後、男性の自宅に謝罪に訪れた署長は、玄関先で土下座までしていた。そこまでするのは、尋常なことではない。しかも、男性の陳述書によると、100万円もの示談金も支払われている。男性に多額の示談金を申し入れ、土下座をする一方で、メディアの前では平然と「自供を強要はしていない」「暴行とは無関係」「捜査に問題はない」と主張する。男性が「驚いた」という、あからさまな署長の「2つの顔」には、西山さんから自白を取ったのと同じ人物だったことを悟られまいとする、差し迫った事情が読み取れる。

この事件を取材した当時の記者たちは、発表後すぐに男性のところに取材に行き、警察発表の嘘を暴きはしたが、この刑事が西山さんの取調官だったことを最後まで隠し通されてしまったのは、残念と言うほかない。

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文=秦融

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