掘り出されたその事件は、西山さんを取り調べたのと同じ刑事による、正真正銘の冤罪事件だった。便意をもよおし、差し迫った状況を訴える人に「やった」と自白するまで許さない。いったい、これはどこの国のいつの時代の話なのか。そう思わせる極め付きの内容だった。
(前回の記事:埋もれていた、もうひとつの冤罪事件。暴行して自白させた刑事)
もうひとつの冤罪事件の被害者の陳述書を読み終えた私は、角記者に言った。
秦「本当にひどいな。迎合とか、誘導とかといった生やさしいものじゃなくて、もはや拷問と同じだな」
角「トイレにも行かせないんですからねえ」
秦「こんなこと、今の時代にやっているなんて、信じられんな」
角「西山さんの裁判を地裁でやっている最中の出来事です」
秦「しかも、『はい、逮捕』って、何だよ」
角「一丁上がりって感じですよね」
西山さんの事件で捜査の不当性を伝える記事を書く上では、これも欠かせないネタになると予感した。
冤罪から12年、男性の思いはいま
ただ、すぐに取材に手が回らず、男性にコンタクトしたのは、私と角記者が大津支局で打ち合わせてから約1年後。その後取材班に加わった大津支局の成田嵩憲記者(32)が被害男性と接触できたのは2017年10月のことで、大阪高裁で再審開始決定が出る、少し前のことだった。
私のメールボックスには同年10月31日に届いた成田記者からのメールが残されている。
「秦さま、角さま、お疲れさまです。『はい、逮捕』された被害者○○さんの連絡先が分かりました。近く取材もさせてくれるそうです。自宅で義父から聞き、本人とも少し電話で話しました」
男性の自宅は、車で高速道路を飛ばしても片道1時間20分、往復で3時間近くかかる。大津支局の記者にとって、日常業務と調整しながらその時間をつくるのは一苦労だ。すぐに成田記者に電話した。