企画する側からすると、元々広告は、「制約で成り立って」いる。伝えなければならないことは決まっているし、映像なら15秒とか30秒とかごく短い時間でまとめなければならない。予算にも限りがあるし、クライアント側の関係ない部署から横やりが入る(企画者側はそう感じる)ことも多い。
時には、クライアントの担当部内でも、担当と課長と部長と役員の意見が食い違ったりするが、それでもなんとか仕上げなければならない。そう考えてみると、広告会社のクリエイティブ部門の人たちは、ある意味で「制約のなかで企画をするプロ」とも言える。
そんな視点から、前回に引き続いて、コロナ禍のなかで制作された海外事例をご紹介しよう。Honda UAEが、4月9日にいち早くリリースした「#Stay Home」という広告だ。
家から発信する最初のクルマのCM
Honda UAE「#Stay Home」
35秒ほどのこの動画は、ホンダのクルマ「シビック」のアップに、ヨハン・シュトラウスの優雅なワルツが流れるところから始まる。そして、「THIS MIGHT BE(この動画はたぶん)」といった意味の文字が大きく表示される。
クルマが走っているかのようなシーンに続き、路面が現れるのだが、よく見ると、絨毯の表面のアップだ。そこに「THE FIRST CAR COMMERCIAL (最初のクルマのコマーシャルになるだろう)」の文字。走行しているクルマのアップが続き、「TO BE WRITTEN(企画され)」の文字が表示される。
次に、一瞬、回転するホイールに見える映像が現れるが、よく見ると洗濯&乾燥機のドラム部分。そして、「DIRECTED(演出され)」の文字。その後、一瞬、陽光が見えるが、これもよく見ると家の窓越し。今度は、「EDITED(編集され)」の文字が。そして、ひび割れた大地を思わせるシーンは、実は家の床だ。
続いて、「AND WATCHED(そして、見られる)」の文字。「ENTIRELY FROM HOME(すべてが家から)」と続き、引きの映像でクルマがミニカーであったことがはっきりわかる。最後に「UNTIL WE DRIVE AGAIN(ふたたびドライブできるまで)」「#STAY HOME(家にいよう)」のメッセージが現れる。
提示される文字をつなげれば、「この動画はたぶん、企画、演出、編集、視聴のすべてが家から行われる、最初のクルマのコマーシャルになるだろう」という意味になる。
人が集まっての企画会議や撮影や編集ができないという「制約」を、いち早く「アイデア」に変えて、「外出を控えて家にいよう」というメッセージにつなげた事例と言えるだろう。