マクロ経済的なデータはかなり遅れて入ってくるため、研究者たちは予測ツールとして、市場自体の価格シグナル、なかでも将来の配当金(dividend futures)に注目している。
シカゴ大学のニールス・ゴームセン(Niels Gormsen)とラルフ・コイジェン(Ralph Koijen)は最近、ここ数か月間の新型コロナウイルスに対する市場の反応について、「予備的かつ随時更新される」論文を発表した。
彼らはまず、株式の価格は、予想される将来の配当金の合計と等しくなければならないという基本的な前提から出発した。つまり、株式の価値は、投資家がいずれ受け取ると期待する現金の価値と等しいということだ。そしてこの前提に基づき、米国と欧州における株価の動きや将来の配当金を調べた。
彼らはさらに、配当金がGDP成長率と強く相関することを示した。こうして彼らは、価格のさらなる変動によって市場動向が急速に変化する可能性があるなかで、経済全体の今後の見通しと最新状況への市場の反応について洞察を得られる、ひとつの視座を提供した。
武漢ではなくイタリア
彼らはまず、株式市場は、武漢でのアウトブレイクよりも、時系列からみてイタリア、韓国、イランへの新型コロナウイルス感染症の拡散に、はるかに大きく反応した事実を指摘した。最初の武漢での集団感染発生は、数週間にわたって市場を大きく揺さぶるほどのものではなかった。
株価の下落は、中国以外の国々における感染者数の急増に伴って起こった。その後、より広範な売却の動きが、世界各地の市場で広まった。
反発を促した政府の刺激策
彼らはまた、3月の安値からの市場の反発を促したのは、政府の景気刺激策であった可能性が高いことも示した。ただし、今後2年間の成長率に関する市場の見通しは、依然として悲観的だ。
彼らの推定によると、米国の配当予想は現在30%近く下がっており、欧州の配当予想は40%近く下がっている。これらは大幅な下落であり、市場では引き続き、価格の変動に伴ってこれらの評価が更新されている。長期債券の利回りも低下しており、とりわけ米国とドイツにおける30年債利回りの暴落が顕著だ。
このことは、企業収益に関する市場の見方が、より悲観的になり得た可能性があったことを意味する。債券利回りの低下は、ほかの条件がすべて等しければ、割引率の低下によって株価を押し上げる方向で作用するからだ。したがって、2020年3月の安値は、債券価格の動向による株価上昇の効果を加味して補正すれば、より大幅な値下がりを示した2008年から2009年の金融危機に匹敵する可能性がある。