(前回の記事:フェイク情報に踊らされる。捜査バイアスが冤罪の流れを加速した)
あらかじめ筋書きをつくり、必要な「自白」を求めて密室で何時間にもわたって問い詰め続ける。滋賀県の「呼吸器外し」事件では〝たたき割り〟と呼ばれる恐ろしい捜査手法の実態が、病院側が作成した滋賀県警への抗議文に残されていた。
刑事による「威嚇と執拗な強要」。病院が出した抗議文
抗議文は、患者の死亡からおよそ1年が過ぎた2004年5月14日付け。「原因および見解をまとめた資料」と題し、虚偽自白を引きだそうとする強引な捜査手法を厳しく断罪する文書には、驚くべきことが書いてあった。
原文のまま抜粋するので、読んでいただきたい。
「3つの警察署でとりおこなわれた捜査当局の看護師、看護助手に対する事情聴取の手法から、捜査の基本方針が看護師Sの犯罪性を指弾することにあることが明らかになってきた。すなわち、この間の事情聴取でSに対し『アラームは鳴っていた』との供述をするよう、また西山に対しても『Sから鳴っていなかったことにするよう働きかけを受けた』との供述をするよう、不当な威嚇と執拗な強要がなされた。こうした事態をうけ、病院側は参考人としての事情聴取段階における両名の基本的人権を保護することを目的として、7月9日、弁護士にSの刑事弁護を依頼した」
抗議文によると、〝たたき割り〟の捜査が行われたのは患者死亡から2カ月半後の2003年7月8、9、10日の3日間。そのすさまじさから、2人が精神に異常を来した経緯が記される。
「7月9日の事情聴取終了後、10日に勤務に復帰した西山が、午前中から不可解な身体反応を示して歩行不能になるとともに、ベッド上で『Sさんが危ない』『警察に私がいかなくては』などの譫言(うわごと)をくり返すため、捜査本部から当時捜査の指揮をとっておられた滋賀県警本部刑事部捜査一課課長補佐○○警部の来院を仰ぎ、西山の病状がこの間の捜査当局の強圧的な事情聴取を原因として発症したことを明確に確認して頂いた」
経緯を補足すると、西山さんは当初の事情聴取の段階では「鳴った」との虚偽自白は引き出されなかったものの、追い詰められた揚げ句に「鳴ったかどうか分からない」と苦し紛れにあいまいな答え方をした。そのため、同僚のS看護師への追及が激しさを増す結果になり「Sさんが危ない」「警察に私がいかなくては」といったうわごとになったのだろう。
それにしても、警察の激しい追及で歩行不能になり、職場でうわごとを繰り返すというのは尋常ではない。そのような場面が現実にあったことに驚かされた。