ビジネス

2020.05.13 22:00

人生の成功は「運次第」と答える日本人に欠けている視点

リバネス代表取締役グループCEOの丸 幸弘(左)と、リンクトインジャパン代表の村上 臣 

新型コロナウイルスの影響で、人との物理的な距離感、コミュニケーションの仕方が変わるなか、「いかに人間関係を育むか」は、この先の大きな論点のひとつだろう。 4月25日発売のフォーブス ジャパン6月号では「#新しい師弟関係」に焦点を当て、全55組の師弟を紹介。

そのなかから、世界最大のビジネス特化型SNS「リンクトイン」の日本代表を務める村上臣と、ユーグレナの立ち上げに参画し、現在は研究開発型スタートアップの支援を行うリバネスを率いる丸幸弘の「師弟対談」を、本誌に載せきれなかったエピソードを番外編としてお送りする(本編の一部はこちらからお読みいただけます)。



村上:僕が丸さんと出会ったのは、ちょうど一回ヤフーを辞めた時でした。(2011年に一度退職し、2012年4月より再びヤフーで執行役員兼CMO)。ちょうどその頃、実家で森が発見されたんです。田舎ではよくあることなんですよ(笑)。時間的にも余裕があったので、見に行きました。これは手を入れたらきれいになるんじゃないかと。

僕はアウトドアが好きなので、残された山をきれいにする過程で自分のキャンプ場を作ろうと思いました。ヤフーを辞めて初めての活動は、コマツの教習所通い。山の整備に必要な資格をとり、Wi-Fiもしっかり通るようにして、最高の環境を作り上げました。

:僕は向こう100年の地球の未来や課題を考えるディープテック研究者として、短期間でお金儲けができるIT業界を「チャラテック」と呼んでいますが、ある意味、羨ましくも思っていました。彼もその「チャラテック」の一員だと思っていたら、山に入って木を切っているんだと言う。ヤフーを辞めて木こりになったのかと思いましたよ。

その時に、村上さんを尊敬しましたね。この人はウェブ空間で生きているけれど、リアルな山に向き合える人なんだと。パソコンだけに向き合ってる人のことを僕はあまり信用しないのですが、この話を聞いて、人間味があるなと思いました。

村上:2人とも別々の業界にいたので、話はまったく噛み合わなかったのですが、お互いの世界鮮で定期的に会うようになりました。異分野だからこそ見えてくるワクワク感があるような気がします。すごく刺激を受けます。

:まさに業界も組織も関係ない、個人同士の関係です。

村上:ビジネス特化型SNSのリンクトインは世界22カ国を対象とした「仕事で実現したい機会に対する意識調査(Opportunity Index 2020)」を発表し、人生で成功するために大事なことはなんですか?という質問をしました。回答を見ると、日本だけが不思議な国でした。2番目に「幸運」が入ったのです。世界のランキングでは、3番目に「ふさわしい人とのつながり」が入りますが、日本のランキングには上位5番にも入りません。

例えば今、日本には「配属ガチャ」という言葉があります。新卒で入った会社で自分がどこの部署に配属されるかわからない、まるで「ガチャガチャ」をしているような感覚を表した言葉です。最初から自分がその会社で何をするかわかっている他の国の雇用制度からすると、特異な現象です。

:遺伝子を調べれば、仕事の適性はある程度わかります。営業に向いているかいないか、朝弱いか強いかもわかる。例えば、キリンは首が長いのに、わざわざ地面の芝生とか食べないでしょ? もちろん努力して苦手なことをやるときもありますが、苦手なところど真ん中に所属したら死にますよ。僕だって同じです。昭和にはそういうことも我慢しなければいけない時代があったかもしれないけど、今は令和です。時代は変わったんです。

村上:それでも今の会社は、約3年は所属が決まった部署でやっていかなくてはいけません。 

だから日本は、第二新卒のマーケットがめっちゃでかいんです。新卒の半分以上は3年以内に辞めている。大学で学んできたことも就職に関係ない。大学名しか関係ない。実際、ディープラーニングで修士号を取った人でも、専門領域とは全然違う部署に配属されることがあります。それに絶望して辞める人もいます。上司からは、期待に答えていれば、お前はそのうち好きな仕事ができるようになると言われ続ける。

ここで僕が気になるのは、日本人が会社の外を見ていないことです。「出世=社内で役員になること」で全部逆算されています。

:そんなに出世したいなら、自分で会社作っちゃえばいいのに。

村上:丸さんの言うように、起業も自分とは遠い話だと思っている人が多い。いまだに多くの人が、同じ会社の花形部署に行くことを目標としているからでしょう。

:そこで提案なんだけど、人事部廃止して、全部リンクトインに変えたらどうなるのかな。一部の企業と言わずに、日本全国の企業に導入する。

村上:欧米ではそういうことが起きていて、社会人になったらみんな100%リンクトインのアカウントを持っている。例えば、ある会社で新規事業を始めるにあたり、マネジャーが必要になったとする。その場合、社内の人材も社外の人材もリンクトインで探すんです。社内外にオファーを出して、ベストな人を採用する。ところが日本だと、社内の候補に限られる。まず、そこの発想を180度変えるべきなんです。もちろん、社内にいる人で最適なら問題はないのですが……。

:リバネスは個の集合体なので、いろいろな横のつながりを大事にしています。社内外に交流を持って、事業をドライブしていく。22世紀、23世紀型を意識しています。だからよく引き抜きもありますよ。引き抜きがあるのは、嬉しいことです。

今の時代は、SNSで個人同士がつながることが多い。だからこそ、会社だけに縛られない関係性がいっそう加速していくのではないでしょうか。

──対談の本編は、発売中のフォーブス ジャパン2020年6月号でお読みいただけます。6月号では、マネーフォワードCEO辻庸介、マクアケ代表取締役社長の中山亮太郎、作家の辻仁成から政治家野田聖子まで、全55組の師弟関係を一挙公開!ご購入はこちらから。



村上 臣◎リンクトイン日本代表。1977年生まれ。大学在学中に立ち上げた会社の合併に伴い、2000年ヤフー入社。一度退職後、12年からヤフーの執行役員兼CMO就任。17年から現職。

丸 幸弘◎リバネス代表取締役グループCEO。1978年生まれ。東京大学大学院 農学生命科学研究科応用生命工学専攻博士課程修了、博士(農学)。大学院在学中にリバネスを設立。ユーグレナなど多数のベンチャー企業の立ち上げにも携わる。

文=井土亜梨沙、写真=平岩享

この記事は 「Forbes JAPAN 6月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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