ただ、実は私自身は、なるほど来るものが来たか、という思いで、比較的、冷静に受け止めています。なぜなら、これまで3000人以上の人を取材してきたなかで、「人生は思っているようになどならない」というメッセージを何度も耳にしていたからです。
特に戦前生まれで、戦争中に子ども時代を過ごした人たちに、この話をされた方が多かった。第二次世界大戦の直後に、世の中が一変してしまったからです。昨日まで正しかったことが、正しくなくなってしまった。大人の言っていることが、まるで変わってしまった。未来がいかに先が読めないものなのか、そんなことを子ども時代に鮮烈な体験として記憶されていたのだと思います。
私は生き方や仕事をテーマにしたインタビュー取材をよくしますが、どうしても「これからどうしたらいいでしょうか?」というニュアンスで質問をしてしまいがちです。あるときには、そんな質問をして、取材相手から叱られたことがあります。「どうすればいいか、などと聞くな」と。
その人は「その通りにやったところで、そうなるはずがない」という強い信念から、言ったのだと思います。以来、私は次第に、取材で「How」を聞くことに対して疑問を深めていくことになります。自分の頭で考える「Why」で、相手から話を聞かなければいけない。そうしなければ、いつまでも本質にはたどりつけないと悟ったのです。
そして、このメッセージを強く発してくださった一人が、養老孟司さんでした。
いまの若い人はなんだか不幸
養老さんは、東京大学医学部出身の解剖学者にして、いくつもの大学で教鞭をとられていましたが、著書である『バカの壁』が400万部を超えるなど、鋭い論考を持つエッセイストとしての顔も持っています。
もうずいぶん前になりますが、その養老さんに、若い人に向けたメッセージをいただこうと、鎌倉の自宅にお邪魔しました。
開口一番、言われたのは、強烈なひと言でした。
「学生を見ていてもそうなのですが、いまの若い人はなんだか不幸そうですね。結局、それは先の見えないところを、一度も通ったことがないからだと思う」
いまの若い人たちは、「こうすればこうなる」という予測可能な人生ばかりを追い求めて生きているのではないか。人生を思い描いた通りに歩んでいこうと考えていることに対しての、強烈なアンチテーゼでした。
「将来のことならちゃんと考えている、という人もいるかもしれませんが、それは恐らく自分が予想できる未来です。大事なのは、予想どおりになんか、とてもいくわけがないと理解することです。
若い人は、ああすればこうなると、固定化された図式にすぐに当てはめたがる。でも、人はそんな簡単なものじゃない。企業の世界だって、昔からそうでした。思いどおりにいくと、みんなが思い込んでいたけど、ちっともそうならかった」