養老さんは、中学校でも高校でも、校長先生はドイツ人だったのだそうです。よく朝の訓辞で聞かされたのが、「勇気」という言葉でした。先が見えないときは、その「勇気」で、まず一歩を踏み出してみなさい、と。
「そもそも先のことなんか、だれにもわからないんです。どうなるかわからないけど、まずやってみよう。そういう気持ちが苦境を切り抜けるパワーを与えてくれる」
そして、養老さんは、まず一生をどうやって生きていきたいかを自分で決めるところから、きちんと考え直したほうがいいと言われました。
「日本人は逆でしょう。外ばっかり見ている。しかも、根拠もない世の中の常識に踊らされている。だから不安になるんです。外の状況によってはいいこともあるだろうし、悪いこともある。でも、自分はこうやって生きていくのだと決めていれば、そんなことは関係ないと言えるはずだ」
自分が変われば、世界も変わる
新型コロナウイルスによって、大きな変化の時代を迎えつつあります。これから世界がどう変わっていくのか、誰にもわからない。しかし、そこで不安になるのは、変わらないことを前提として考えるからです。変わることを前提に考えればいいのです。
養老さんは、人間は変わるのだと言われました。人は変わるもの。自分はいつも揺るぎないなどというのは勝手な思い込みだ、と。
「若い人の最大の弱点は、自分が変わることを受け入れず、いまの自分で世界を考えたがるところです。自分が変われば、世界も変わることに気づいていない」
これは若い人に限ってのことではないと思います。人間なら、誰にも当てはまることでしょう。まずは、変わることを受け入れること。自分から変わっていくこと。自分を変えるのは、怖いかもしれない。予想がつかなくなるからです。だからこそ、そのとき、勇気というものが意味を持ってくる。
養老さんは、最後に、こうも言われていました。
「では、変わるとどうなるのか。楽しくてしょうがなくなるんです。何か新しいことをするとき、ドキドキワクワクするでしょう。その感覚です。とにかく勇気を出して、自らを変える第一歩を踏み出してみることです」
新型コロナウイルスとの遭遇で、いつまでも変わらないと思っていた時代はもう終わったのです。だからこそ、養老孟司さんの言葉は、いまも私たちの心に響き渡ります。自分自身から変えていく。これからの時代を生きていく糧となる心得ではないでしょうか。
連載:上阪徹の名言百出
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