ボルボ、エリクソンなど、世界展開するスウェーデン企業が拠点を置いており、彼らのイノベーションをサポートすることで、市自体も成長してきた。
同市は2018年、オープンでダイナミックなイノベーションによって都市生活を改善した都市に授与される「iCAPITAL AWARD」のファイナリストに選出された。様々な実験を行う「テストベッドヨーテボリ」の立ち上げ、サイエンスパークとの革新的なプラットフォームの形成、市民の意思決定への関与などが評価された結果だ。
ヨーテボリはなぜ、イノベーションの創造に成功しているのだろうか。市の職員として企業や産業のイノベーションを推進するPeter Berggren氏に話を聞いた。
イノベーションの鍵を握るクワトロへリックス&テストベッド
左から4人目がPeter Berggren氏
ヨーテボリ市のイノベーションの特徴について、Berggren氏は、「市が中心となって、産・官・学・民がともに連携している点です。イノベーションには企業、行政、アカデミア、市民の多角的な視点による創発と相互協力が不可欠なことから、市がプロデューサーとしてそれぞれをつなぎ、プロジェクトを推進しています」と語る。
また、この街のイノベーションを語るうえで欠かせないのが、「テストベッド」の存在だ。「とにかく“トライすること”を大事にしています」とBerggren氏が言うように、アイデア試す環境が整っている。
「イノベーション推進には「実験」が欠かせません。市が単なる場所貸しに終始せず、SharingCity Gothenburg、DriveMEなど革新的で持続可能なソリューションのための活気あるテストベッド構想に主体的に関わることで、イノベーションが生まれやすくなっています。また、市はサイエンスパークの共同所有者にもなっています」
例えば、リンドホルメンサイエンスパークは、1980年代、ヨーテボリ市が造船所の危機によって約2万人が職を失ったところから構想がスタート。ヨーテボリ市やチャーマーズアカデミー、そして国際的なビジネスコミュニティ等の共同投資によってサイエンスパークが設立されたことで、かつての造船所はヨーテボリ地域のITセクターの心臓部へと変貌した。
リンドホルメンサイエンスパーク 外観風景
ここでは、社会のニーズをもとに、「人々とモノの明日のモビリティ」に焦点を当て、ビジネス、学界、社会の関係者が大規模な共同プロジェクトを進めるための中立的な開発環境を提供している。モビリティの他に、ICT、AI、視覚化、マルチメディアにおける共同プロジェクトなど幅広く推進されており、 強力なアイデアはコラボレーションから生まれることを実感しているという。
私自身、ヨーテボリ市を訪れて一番印象に残ったことは、多様なステークホルダーが手を取りプロジェクトを進める“クワトロヘリックス”を大事にしていることだ。クワトロヘリックスとは四重螺旋の意味で、産・官・学・民の4つのセクターが共創して活動を生み出していくことをいう。日本も自治体が大学や企業とコラボレーションすることはあるが、市が主体的なプレイヤーとして、かつ市民も巻き込んでイノベーションを牽引していくケースはまだ少ない。