ビジネス

2020.05.18

スウェーデン第二の都市は何が凄い? ヨーテボリのイノベーション戦略

ヨーテボリ市 リンドホルメンサイエンスパーク内のジオラマ


“社会的人事異動”という新時代のキャリアモデル


ヨーテボリ市のようなクワトロヘリックス型イノベーションは、どうしたらうまくいくのだろうか。

ここで重視されるのが、多様な価値観を受容し、未来解を生み出せる個人の存在だ。スウェーデンでは、一人が企業、行政、アカデミアなどセクターを超えて、柔軟にジョブチェンジを行うことで、多面的なキャリアを築く人が多い。実は、このような社会全体を横断的に一つの組織と見立ててキャリアモデルを積む、いわば“社会的人事異動”をする人の存在も、クワトロヘリックス型イノベーションを推進するカギといえる。

事実、ヨーテボリ市のBerggren氏もプロパーの職員ではない。ヒューレット・パッカード、ボルボなど民間企業でキャリアを重ねた経験を元に、現在、市のイノベーション改革における企業とのコラボレーションをマネジメントしている。

スウェーデンのイノベーションシステム庁・VINNOVAでも、採用時に幅広い経験を持つ人物を重視しているという。イノベーションプロジェクトを手がけるためには深い専門知識を持った人材よりも、多様なバッググランド、多面的な視点、多彩なネットワークを持つ人物が必要と考えているからだ。

もちろん、スウェーデンで“社会的人事異動”を可能にする背景には、整備された労働移動促進の社会的な仕組みのあることが大きいため、一概に日本と比較はできない。スウェーデン人には「職を失ってもセーフティーネットがある」という安心感や「退職=再出発である」という意識があり、分野・業種にこだわることなくジョブチェンジを行うことで、社会的人事異動が繰り返され、複数の強み・人脈を持つ人が多く生まれていく。

一方、日本はどうだろうか。キャリアの重ね方がある程度固定化した中で、同じ会社・メンバー内でイノベーションを生み出し続けることにも限界があるように思う。たとえば人事異動という概念を企業内というフレームに閉じず、社会という大枠で考えてみる。一つの分野・業界にとどまることなく、企業から行政、行政からアカデミアなど、ボーダーレスに動く人が増えれば、イノベーションの後押しになるように感じる。

新型コロナウイルスの影響により、私たちの働き方や仕事の進め方など、これまでの常識は一変した。コロナ後の世界では、社会課題の解決やイノベーションの創造に、これまで以上に“枠”を取り払い、地球市民として一致団結して取り組むことの必要性が増していく。クワトロヘリックス型イノベーションが分野を超え、地域を超え、世界をフィールドとした新しいコラボレーションへとつながることが、未来の世界から求められているように思う。


本記事の執筆担当者 >>原 節子
博報堂 ブランド・イノベーションデザイン局 局長代理。三和銀行及び、三和総合研究所経営戦略部(マーケティング戦略構築、組織・人事戦略構築)を経て2000年博報堂入社。以来、運輸、自動車、金融、流通サービス、不動産、飲料、トイレタリーを中心とした企業のブランドコンサルティング業務に従事。グループおよび企業の統合ブランド戦略立案、事業開発、インナーブランディング、組織変革等に主に携わる。昨今は、社会への価値創出をマルチステークホルダーで取り組むソーシャルイノベーションプロジェクト(未来教育会議等)や、経済インパクト社会インパクトの同時実現に向けたSDGs×ビジネスプロジェクトを推進中。

文=原 節子

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