「インターネットの父」村井純氏に聞く、幸福な人間社会を実現するテクノロジーのあり方

慶應義塾大学名誉教授 村井純氏


金野:ITやブロックチェーンといった技術革命によって、組織ではなく個人の能力が重視され、助け合いの共感コミュニティが生まれる「ポスト資本主義」の時代が到来するかもしれません。そんな中で、金銭的価値とは異なる、人間社会にとって本当に意味のある価値について考える必要があります。現在の資本主義のもう一段階先には、どんな未来が待っているとお考えでしょうか。

村井:金融庁のある会合で私は、「柿の種とおにぎりを交換するのは金融庁の仕事ですか?」と聞きました。柿の種とおにぎりというのは、「さるかに合戦」のことです。カニがおにぎりを持っていて、猿はお腹が空いておにぎりがほしいから、柿の種と取り替えようと提案する。猿は「柿の種は蒔くと木になって実がなるから、絶対柿の木の方が得だ」とカニを説得して取り替え、おにぎりを食べて逃げる。カニは種を植え、8年経って実がなった。

結局はこの実を猿に奪われてしまうのですが、ここで言いたかったのは、おにぎりはその場で食べる、いわば価値が揮発するものです。一方で柿の種は8年経たないと価値が生まれないものです。こうした価値交換が金融の分野で考えられるか、と問いかけたのです。

インターネット文明では、価値交換という考え方は非常に面白いものです。従来の地域通貨を進化させ、それを正確に、緻密に取引できるようになると期待されます。

さるかに合戦の話で難しいのは、柿の種が持つ将来生まれる価値と、おにぎりが持つ今の価値が交換可能かという点です。それは単純ではないし、ダイナミックに変化するものです。だから非常に複合的に応用させていく数学的なレトリックを作り出すことが不可欠です。

この難しさがフィンテックの面白さでもあり、このアルゴリズムが正しければ、みんながそれを信頼してスムーズに動く。もし違ったら修正していけばいい。こうした素晴らしい知恵を創出していくことで、先進国・途上国を問わず、お金の未来を左右し、ポストマネー資本主義への大きな鍵となるでしょう。

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筆者(左)と村井純氏(右)◎慶應義塾大学名誉教授

文=金野索一

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