現代社会にも響く言葉の力 「三島由紀夫VS東大全共闘」の見方


映像の一部は、すでに昨年5月16日の「ニュース23」で、「三島由紀夫vs東大全共闘」として紹介されていたが、今回の映画では、それらの映像をふんだんに使いながら、13人にも及ぶ、当時の関係者の証言や三島文学に造詣の深い識者の解説も含め、まったく新たなドキュメンタリー作品としてつくられている。

そして、収められた討論会の映像のなかには、1年半後に起きる三島事件を予告するような内容も含まれている。


(C) 2020 映画「三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実」製作委員会

「私が行動を起こすときは、結局諸君と同じ非合法でやるほかないのだ。非合法で、決闘の思想において人をやれば、それは殺人犯だから、そうなったら自分もおまわりさんにつかまらないうちに自決でもなんでもして死にたいと思うのです」

これは、同じく三島事件の前年に出版された討論会の記録である『討論 三島由紀夫vs.東大全共闘 《美と共同体と東大闘争》』からの引用だが、今回のドキュメンタリーでは、この発言の模様を映像として見ることができる。これはなかなか貴重だ。映像では、実にさりげなくこの部分が発言されているのだが、それだけにそこに否応もなく「真実」を嗅ぎ取ることができる。

その意味では、この映画の核となっている討論会の映像は、当時すでにノーベル文学賞の有力候補と言われており、世界的文豪でもあった三島由紀夫の「自決」の理由を知るための有力な手がかりともなるものかもしれない。

伝説の闘士のいまも舌鋒鋭い発言


当時の映像に加えて、映画には、討論会の主催者であった元東大全共闘の人間の証言、三島と真正面から渡り合った全共闘随一の論客であった芥正彦氏の発言、そして三島の護衛のために会場に潜入していた楯の会(三島が結成した民間防衛組織)のメンバーのいまだから明かされる真実など、ドキュメンタリー作品として興味深い内容も収められている。


左:芥正彦氏、右:三島由紀夫 (C) 2020 映画「三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実」製作委員会

とくに討論会の当日、まだ幼い娘を抱えて、壇上で三島と丁々発止の議論を繰り広げた芥氏のいまなお舌鋒鋭い発言は、当時の三島と学生たちの圧倒的な「熱量」を知るうえでは、貴重なものとなっている。この映画のプロデューサーである刀根鉄太氏は、作品をつくるうえで芥氏の登場は外せなかったと語る。

「伝説の闘士はいまも熱かった。『なぜこれを映画にしたいんだ』と詰め寄られ、ここでバシっと決めなければ出演を引き受けていただけないだろうと必死でした。この奇跡的な討論を、下の世代にも引き継がなければいけないという思いを懸命に話したら、『わかった協力しよう』と言っていただけたときに、初めてこの映画は成立すると思いました」
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文=稲垣伸寿

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