ロシアがそうしたのは、ロシアとドイツを結ぶ天然ガスパイプライン「ノードストリーム2」に関わる企業に対して、米国が制裁を科したことに対する報復だという説も、まことしやかに語られている。だが、これはばかげた考えだ。
石油輸出国機構(OPEC)は新型コロナウイルスの流行中に市場を安定化させるため、追加減産を求めていたが、ロシアは6日、それを拒否した。いつものように、ロシアは独自路線を取ることにしたわけだ。
ロシアにとっては、自国の生産を減らしてもほとんどメリットはなさそうだった。需要の減少を受けてほかの生産国は減産を余儀なくされていたので、そうやっても価格の押し上げ効果はほとんど期待できなかった。また、ロシア産原油の販売は落ち込んでいなかったようだ。
要するに、ロシアはささいな侮辱を受けた米国に罰を与えようとしたのではなく、あくまで自国の利益が最大になるように行動したにすぎないのだ。
さらに言えば、もし仮にこれが米国を痛めつけようというロシアの策動(あるいは、サウジアラビアとも連携した攻撃)だったとしても、望むような成果が得られるとは考えにくい。そしてそのことは、ロシアやサウジアラビア自身、過去の経験から知っているはずだ。
2014年、OPECは過剰な供給によって原油価格を下落させた。これは米国のシェール業界を大きく揺さぶった。企業はよろめき、従業員は一時解雇され、投資家もつまずいた。しかし、結局は業界の再編が促され、強い企業が生き残り、競合他社を買収してさらに成長することになった。現在、米国の原油生産量は史上最高に膨らんでいる。
原油安は確かにシェール企業やその労働者に痛手を負わせるが、シェール産業を破壊することまではできない。原油はなお地下に眠っていて、経営状態の良い企業によって掘り出されるのを待っているのだ。