アメリカの発明王、トーマス・エジソンが19世紀末に設立したGEは、20世紀のアメリカ人にとっては自国を代表する家電メーカーで、冷蔵庫も洗濯機も乾燥機も、なにからなにまでGEで揃える根強いファンはいまでも多い。
若き日のレーガン元大統領も、「GEシアター」という30分のテレビ番組の進行役を8年間務め、そこで知名度を上げ、B級の映画俳優から政治家へと転身する足掛かりとした。
GEは、いまでは金融事業を筆頭に、航空機エンジンや、医療機器など、恐ろしいくらい守備範囲の広いコングロマリットだ。
会長就任から5年間で10万人を解雇
家電製品のメーカーであったGEが、これほどのコングロマリットへの転換を図ったのはウェルチの考え方によるものだ。業界で第1位か第2位になれないのなら、その会社は売却して、別の業界で第1位か第2位になれるものを探すべしとのウェルチのポリシーが貫かれ、事業を拡大した。「まあまあの地位に立つものの寿命は短い」とマイクの前で喋る若き日の彼の姿が、いまでも動画で見られる。
株価総資産も、1981年に会長に就任したときの約1兆4000億円から、2001年に引退するときの40兆円にまで会社を成長させた手腕は、ほかに比較できる経営者がいない。しかし、その激しい事業の売却や清算によってたくさんの人材をレイオフし、血も涙もない経営者と非難された。会長就任の最初の5年間で10万人を解雇している。
筆者は以前このコラムで、「パークス」というアメリカの経営者が執着する現金以外の役得を説明したが、ウェルチは引退する前から、会社を退いた後もCEO時代のパークスを提供するように契約を交わしていた。それはニューヨークの社宅や運転手付きの社用車、プライベートジェットの利用、野球のシーズンチケットなどと、年間2億5000万円にものぼった。
自伝を読むと、彼は確かに従業員の解雇に対して躊躇がなかったことを認めている。従業員をランク付けし、ボトムの5%を自動的に解雇せよと管理職に求めていた。また、プロの経営者は、経営者の人材需給マーケットのなかにあって市場プライスがつくだけの話なので、その値段が高いとかパークスが無駄だとかの非難をすることは、市場原理を非難することと同じだと批判している。
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ウェルチは、まるでマネーゲームのように、事業や会社を売り買いして会社を成長させたという印象ばかりが強いように見えるが、アメリカのモノづくりの質を上げたのはやはり彼の功績だ。
日本のほぼすべてのジャンルに及ぶ製造業のメーカーが、80年代にカイゼンやQC活動で飛躍的にその品質を向上させ、世界への輸出の機会をつくったときに、アメリカは製造過程に起こる不具合やばらつきが多く、多くのメーカーは大きく力を失っていった。