そこで、ウェルチが率先したのは、もともとはモトローラが開発していた「6シグマ」という品質管理手法を取り入れたことだ。これは、製品の質の平均値を上げるように努力するよりも、質のばらつきをなくすことに着眼するほうが品質向上に資するというロジックだが、これをウェルチが自ら音頭をとってGE内で実践し、大きな製品の改善をもたらした。これは現在、米製造業の品質管理の根幹の思想をなしている。
現在、6シグマの研修会社のサイトには、ウェルチの名前を挙げて、彼がアメリカの6シグマのパイオニアであると表記している。GEは製品の品質向上から6シグマを始めたが、やがてサービスを含む全分野の改善にまで応用し、実際ウェルチはGEの金融部門の経費を2000億円も節約している。
「企業内政治」に対する激しい憎しみ
私生活では、GEを晴れて引退して、自伝を世紀のベストセラーにし、初版の印税だけで7億円も稼いで華を飾った年に不倫が発覚すると、それは前代未聞の大離婚訴訟となった。こんなふうに、ウェルチの絶賛と中傷は両方ともスケールが大きい。
しかし、おそらく、誰もが疑わなかったのは、彼の「企業内政治」への憎しみだ。その人事手法や、企業の買収や売却、6シグマの品質管理、後継者の指名プロセスなど、さまざまな彼の具体的な経営手法がメディアに取りざたされる一方、もっとも彼が熱弁をふるっているシーンに共通するのは、「会社に政治を持ち込むな」という点だ。
自分の地位を守るために嘘をついたり、昇格した同僚をうらやんだり、人になにかをさせるために無駄なルールをつくったりと、そういう「さもしい体裁を涼しく整える魂胆」が会社に政治を持ち込み、スローダウンさせ、やがて企業が死んでいくと彼は語る。
スピード経営こそが1位か2位にさせてくれると信じた彼は、社内の敵ともざっくばらんに話した。ざっくばらんこそが、必ずチームを強くすると信じ、従業員にもそのざっくばらんさを求めた。「おれには本音で言ってくれ」と。
なので、企業の売り買いや改組で、変革を恐れる従業員にも、それが具体的に彼らの財布にどういう影響を与えるのかということをきちんと口にすることを自分に課し、幹部にも課した。社員1人1人にとって、夢とか希望とか職場が家族的だとかいう以上に、「彼らが本音で聞きたいことがあるはずだ。そこを喋らなければざっくばらんとは言わない」と。
彼の自伝の日本語訳は、出版元の意向から経営者の教科書を目指したのか、「ジャック・ウェルチ わが経営」(日経ビジネス人文庫)となっているが、原題は「Jack: Straight from the Gut」で、むしろ「ジャック:本音で語る」というタイトルがふさわしい。
故人の冥福を祈りたい。
連載:ラスベガス発 U.S.A.スプリット通信
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