人口減に悩んでいた村民1,600人の村で今、ベンチャー企業が次々に起業している。 荒廃していた村の財産である森林の権利を集約化し、地域再生を目指す事業の成果だ―。
日本の森林は小規模な個人所有が多いため、効率的に管理していくことが難しい。面積の8割が人工林で覆われている岡山県の西粟倉村(にしあわくらそん)同様、村民1,600人の多くが林業と農業に携わり、森林に対する想いは強いが、近年は間伐(人工林の育成に欠かせない、木を間引く作業)が滞り、荒廃が進んでいた。
そんな現状を打破しようとする男がいた。トビムシ(東京・国分寺)の社長、竹本吉輝だ。竹本は2009年、持続可能な地域再生の実現を目指し、個人所有の森林を村役場が10年間預かって管理する事業「百年の森林構想」(権利集約化)を提案し、その実行を支援した。そして、国内初の森林・林業事業支援ファンド「共有の森ファンド」を創設する。400人の個人投資家から4,000万円の資金を集め、西粟倉村を10年間応援する「西粟倉ファン」をつくった。さらに、地域商社「西粟倉・森の学校」を設立し、地元の間伐材を利用した床板や家具を製造販売するなど、地域資源の活用に取り組んだ。
すると、こうした「新たな林業経営」 のあり方に可能性を感じた若者が、全国から続々と西粟倉村に集まり、家具デザインや、業務用の薪を生産するベンチャー企業を立ち上げたのだ。「森の学校」でも従業員の独立を支援。これまでに、10社が起業し、70人の雇用を創出するなど、地域再生が加速している。
債務超過に陥っていた竹本を救ったのが、鎌倉投信の新井和宏だった。ブルームバーグの紹介でやってきて熱心に語る竹本の姿に、新井は出資を決断した。
「ソーシャル・ベンチャーに投資するときに重要なのは、その会社が、これからの社会に本当に必要とされるかどうか、そしてその起業家から、覚悟が見えるかどうかです」(新井氏)
出資を決めた新井は、トビムシが発行する社債4,000万円を買い付けた。未上場企業の社債は「流動性がない」。新井もまた、残存期間の10年間、本気で支えるという覚悟を決めたのだ。
そんな「森の学校」が運営するオンライン・ショッピングモール「ニシアワー」に人気商品がある。杉の割り箸だ。
割り箸は、森林破壊の元凶だと悪者扱いされる向きもあるが、実はそうではなく、日本の森にたくさんある間伐材で箸を大量につくり、大量に使えば、森林の整備が進み、地域の雇用が生み出される。そう、割り箸は、使えば使うほど 森や地域が元気になるのである。
近年、国内の割り箸消費量は、激減している。流通量の98%を占める外国産の供給が不安定化し、大手外食チェーンがプラスチック箸に移行しているが、環境に配慮した製品を購入することによって社会を変えていこうとするグリーン・コンシューマーの間で、国産の割り箸を率先して使うことで、地域社会を活性化させたいという機運が高まっている。
「森の学校」設立から5年を経た14年12月期、初の黒字化を実現した。都会の工務店から、床板の引き合いが急増したのだ。地域で林業を中心とした小さな経済圏をつくる、というトビムシの挑戦が、未来を切り開こうとしている。