スモールスタートするスタートアップ経営者には、共通して抱える悩みがある。経営、プロダクト開発に労力とコストをかけたい一方で、オフィス環境やシステムの整備はどうしても手が回らなくなってしまうのだ。ゴルフのスイングや弾道を計測してトレーニングやクラブ選びに活用する「ゴルフシミュレーター」の機器販売を手がけるアンプラスの代表、倉地伸尚もその一人。かつてはクライアント企業のためのITコンサルタントとして働いていたが、ゴルフシミュレーターというニッチな市場での挑戦を選んだ。ゴルフシュミレーターに懸けた倉地の起業ストーリーと、スタートアップとして抱えたオフィス環境の「困りごと」をどのように克服していったのかを紐解く。
シュリンクしているゴルフ市場に、チャンスがあった倉地がゴルフシミュレーターに出会ったのは2005年。シミュレーターは、バブル時代の遺産というかたちで細々と生き残っていた。金融系のシステムコンサルティングの仕事に従事し、忙しく過ごす毎日だった倉地にとって、ゴルフは一番手が届かないスポーツだったという。ある時、職場の先輩が「気分転換にゴルフシミュレーターを」と誘い出したことがきっかけで、倉地はその魅力に取り憑かれた。
シミュレーターという機器の先進性とハイスペックな仕様。また、昼間から熱心に通う人も多く、特別に宣伝されているわけでもないのに、自然に人々が集まる娯楽性に関心を示したのだ。
気がついたらゴルフシミュレーターにのめり込んでいた倉地は、「今日は何人来たのか」「シミュレーションの単価をいくらにしたら売り上げはどうなるのだろう」「機器は他に何がある」などと考えるようになった。日頃から、一旦廃れたニッチ市場にチャンスがあると考えていた倉地は、ゴルフシミュレーターに大いなる可能性を感じたという。
「例えば、宿を貸したり、車を貸したりするようなサービスは昔からありました。そこにテクノロジーのタッチポイントを変えるだけで、UberやAirbnbといったサービスに生まれ変わります。ですので、参加人口がバブル時代の半分に減っているゴルフ業界はチャンスじゃないかと感じたのです」
ゴルフシミュレーターでビジネスをすると決めてからの動きは目覚ましいものがあった。アメリカのaboutGOLF社が南アフリカの軍事産業レーダーを使用したシミュレーションパッケージを作っているという情報を見つけると、すぐに海外に飛び立った。
中国や南アフリカに行って状況を確認し、現地からアメリカにメールを送っては、そのままアメリカに向かう。人も金もコネも、ゴルフ業界の経験もないまま買い付けに飛び込んだ倉地は、5日間で地球2周分も動いた。経験はなくとも金融系の基幹システム構築に携わっていたため、システムを持ち帰ってローカライズするという部分に勝算を感じていたのだ。
起業当時はまるでスイッチが入ったかのように疲れなかったという。睡眠時間が1〜2時間であっても、事業に没頭した。
「今の時代のスタートアップは、IT武装ができる。テクノロジーの後押しがあるので、いろんなチャレンジができるのです。ケネディスペースセンターに行った時知ったのですが、アポロ13号はiPhoneの1/10のスペックで月に行ったというのです。それを知ると、私たちは言い訳できないですよね。メーカーの技術を使い、人類の英知を広げて、新しいスポーツの価値観を構築したいという気持ち一つでやっています」
元エンジニアだからこその発想とはいえ、その当時の2005年はドットコムバブルがはじけたダメージからまだ回復せず、ゴルフ業界もバブル崩壊後から立ち直りを見せていない状況だった。好転する兆しもなく、業界的にはシュリンク傾向にあった。そこを勝機と捉えたのはなぜなのか。
「市場がシュリンクすると、大手が巨額資本を落とさないために、独占していた業態が撤退します。もともと高額商品などはリース物件が大半を占めるため、リースアップが5年や8年のサイクルで必ずやって来ると睨んだのです」
スモールスタートを選択したアンプラスは、少人数で高額商品の在庫を抱えることになるので、たくさんの人に反対された。しかし、倉地はむしろ安心したという。
「そんな声を聞けば聞くほど、『よかった、誰も気づいていない』と思うことができたんです。我々は小さい会社ですが、5人で年間11億円以上を売り上げました。何十億円の案件を獲得したこともありました。撤退していくところにはチャンスがある、ビジネスを成長させるきっかけがあると考えています」
ゴルフ業界にも、まだまだイノベーションの可能性があると倉地は考える。
「海外ではゴルフコースの中に家があるなど、ゴルフは身近なスポーツの一つです。一方、日本ではクラブをもつ機会もないまま忙しく、毎日満員電車に揺られて仕事ばかり。ゴルフ場に行くにも数時間かかります。これではゴルフを始めることも続けることも難しい。でも、普段の生活にスポーツを取り入れることで、生活にメリハリが出て充実感が得られます。ゴルフシミュレーターによって、生活のなかにゴルフのある場を提供したいのです」
倉地はアンプラスを立ち上げる時、堅実な道を選択した。一気に社員を雇って設備投資し、企業規模を大きくするという選択はあえてとらない。市場が爆発することを確信していたため、ゴルフシミュレーターの需要が一気に伸びる分岐点、いわゆる「クリティカルマス」が来るのを待ち続けた。
それまでは権利関係や独占権の維持、アフリカ、ヨーロッパ、アジア、北米の巨大ディーラーとのコネクション構築を優先した。その中で最も大切にしている理念はシステムコンサルタント時代のポリシーだ。
「お客様が求めるものの具現化にとどまらず、市場自体をイメージします。何に成果を求めていて、どこで競争優位に立つことができるか。背景を徹底的に追及してソリューションを行う。もし、ハコモノで解決できなければ、今度は自分たちで何が作れるかを考えます。お客様が長年アンプラスを支えてくれていたからこそ、こうした戦略的なアプローチができるのだと言えます」
多方面からクライアントをサポートする。そんな姿勢から偶然生まれた商品もある。ゴルフシミュレーターを小売店全店で接続し、弾道データをビッグデータ管理するサービスを2011年から開始した。蓄積したデータは2800万ショットにもなり、世界最大級となった。クライアントの中には、このデータを大手外資系メーカーなどへ提供し、営業を仕掛けることもあるという。
スタートアップならではの困りごとを解決するデル テクノロジーズのサービスゴルフシミュレーターというニッチな市場で大きな成果を生みつつあるアンプラス。しかし、一人何役もこなしてきた倉地が抱える困りごとは尽きない。経営戦略や商品開発に時間を優先しようにも、システム基盤構築に掛かるリソース不足といった課題が立ちはだかる。倉地の可処分時間はなかなか増えることがなかった。
「売りっぱなしになりかねない商品なので、メンテナンス、サポートは愚直にやります。しかし、そこに全力投球すると、新商品が作れない。社内のIT業務をどうするかは頭を悩ませていました。そこで、BTO(受注生産)のマシンを大量に売ってくれるデルさんに頼ることにしたんです。デル テクノロジーズはニーズに沿った品揃えがあるので幸運でした。トラブルがあっても、即時にソリューションを出してくれる。システムを自前で作っていたら、かなり大きな壁にぶち当たっていたと思います。ITのリソースは外に委ねる姿勢をとりました」
元システムエンジニアで、2011年にビッグデータを使ったビジネスを行なった倉地のITリテラシーは非常に高い。そんな倉地のニーズを満たすデル テクノロジーズの製品やサービスは、アンプラスの成長に欠かせない存在だという。
「注文した製品をただ届けるのではなく、キッティング(システムの設定やソフトウエアのインストール)も行き届いていましたし、我々の出荷ロジスティクスも一緒に考えてくれました。それに、サポートのスピード感も魅力ですね。デルさんはお役所的なところもないので、心強い体制です」
倉地はデル テクノロジーズ アドバイザーの存在にも注目し活用し始めた。デル テクノロジーズ アドバイザーは、従業員99人以下の中小企業のIT環境に関する課題やソリューションの知見を豊富に有しており、それぞれの顧客の課題感に沿った解決策を導き出すことを得意としている。企業側は自社にとって最適なIT環境を相談し、製品を購入するだけではなく、さまざまなきめ細かいサポートを受けることができるメリットがある。
かつては、周辺機器、追加ボード等のチップセットの動作検証や相性確認に関しては時間を要していた。
「デルさんにすべてお願いすることで、リソースが大幅に削減され、それが可処分時間となって心の中に余裕ができましたね」と倉地は振り返る。
結果的に顧客と向き合う時間や社員と向き合う時間に振り向けられため、サービス内容をより濃くし、新たなニーズを視野に入れた研究開発や新商品開発のプロセスに好循環を生んでいった。
デル テクノロジーズが向き合うのは、アンプラスのように直接取引のあるパートナー企業だけでない。パートナー企業の先にいる顧客の存在も見据えている。倉地はこう語る。
「我々のクライアントの中には深夜まで営業している店舗もあるので、24時間体制のサポートをしてくれるデル テクノロジーズの存在はありがたいですね。我々の商品は海外のソフトを動かすものなので、突然アップデートすることがある。以前は深夜のトラブルでも瞬時に対応してもらえました」
倉地はこれまでの歩みを振り返り、クライアントだけでなく、デル テクノロジーズのようなパートナー企業が自分たちのビジネスを育てくれたという感謝の気持ちしかないという。
デル テクノロジーズ アドバイザーは、1社に対して時間をかけてソリューションを考え抜く。そして、アドバイザーの背後には様々なITの専門領域に特化したチームを構えているので、1社1社の顧客の課題に対してオーダーメードにチーム編成し多面的に支援を行うことが可能である。こうした顧客に合わせた非定型のサポートを実現できることがデル テクノロジーズ アドバイザーの魅力なのだ。
倉地伸尚(くらち・のぶひさ)◎アンプラス取締役社長 。オーストラリアのNSW(ニューサウスウェールズ)大学理学部卒業後、1999年4月より、フューチャーシステムコンサルティング株式会社へ入社(現フューチャーアーキテクト)。2005年に独立し、同社を立ち上げる。
デル テクノロジーズ アドバイザーとは
専任のIT担当者を配置しにくい人材不足の問題が深刻な小規模企業を中心にデル テクノロジーズ アドバイザーがITに関する顧客の悩みや要望をヒアリングし、課題の整理と解決策の提案を行う。
「お客様の困りごとに何でも対応する相談相手として、デル テクノロジーズ アドバイザーは存在しております。デルは製品を売ったら終わりではありません。いつでもお客様からの相談として、サポートできる体制をとっています」(デル テクノロジーズ アドバイザー 川崎 尚也)
▼デル テクノロジーズ アドバイザー
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