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2020.03.05

いかにリスクを取るか──ベンチャーキャピタルの歴史を紐解く

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米ベンチャーキャピタル(VC)の起源は捕鯨だった? 米国はいかにスタートアップ・エコシステムの土壌を育んできたのだろうか。

米国のイノベーションを支えるVCの成り立ちを論じた『VC:An American History』(『ベンチャーキャピタル──アメリカの歴史』邦訳版も刊行予定)。その著者であるハーバード・ビジネス・スクール教授、トム・ニコラス氏(専門は起業論)に「米国VCの歴史から現在の潮流」についての話を聞いた。



──『VC』によると、米東部のニューイングランド地方で19世紀に行われていた捕鯨に米ベンチャーキャピタル(VC)の萌芽が見られるそうですね。

捕鯨とVCファンドには3つの類似要因がある。まず、リターンが非常に偏っている歪曲分布である点だ。VCの運用ポートフォリオには、グーグルやフェイスブックなど、例外的なリターンを生む例外的な企業はまれにしか現れない。一方、捕鯨も、マッコウクジラを捕獲して鯨油を採取し、リターンを生み出すような漁は希少だった。VC、捕鯨いずれのリターンにも不確実性が付き物であり、(平均値から左右対称に広がる)ベル型曲線の正規分布ではなく、1割か2割の突出した成功例を頂点に右肩下がりの右歪曲分布を描くのが特徴だ。

2つ目の要因が、仲介役を中心にリスクキャピタルが動くという組織構造だ。VCファンドでは、ベンチャーキャピタリストが、年金基金のようなリミテッド・パートナー(有限責任パートナー)とスタートアップを仲介する。捕鯨では、エージェントが、医者など、資金を提供する富裕層と船長・乗組員の仲介役を果たした。リミテッド・パートナーも個人の富裕層も、スタートアップや捕鯨の専門知識に欠けるため、直接投資は困難だ。

3つ目が、出資構造や階層システム、インセンティブの類似性だ。スタートアップは、投資に伴う不確実性ゆえ、法外な高利を課されるため、銀行の借り入れはさほど利用しない。捕鯨もVCも、出資者が持ち株を通し、(歪曲分布型の)ロングテールリターンを求める。

──VCの起源は、1946年に米東部ボストンで設立されたアメリカ研究開発法人(ARD)にさかのぼるそうですね。

ARDは、ロングテール型分布のリターンを重視するスタートアップ投資を体系化した企業の草分け的存在であり、ハーバード・ビジネス・スクールの教授らによって設立された。スタートアップの資金難を案じていた彼らは、ベンチャーに資金を供給してニューイングランド地方の開発を促進。高リターンを求めて出資先を厳選した。

そして、大成功したのが、米デジタル・イクイップメント・コーポレーション(57年設立)への投資だ。その結果、ヒット企業に当たれば他の損失を相殺できるという、ロングテール投資の正当性が立証されるに至った。

一方、ARDは構造的に現代のVC企業とは違う。目下、大半のVC企業は、(無限責任を負うゼネラル・パートナーと有限責任パートナーから成る)リミテッド・パートナーシップの形態を取っており、運用期間は10〜12年。だが、ARDは(解約などができない)クローズドエンド型の長期投資であり、VCと違い、開示規則に従う必要があった。
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インタビュー=肥田美佐子

この記事は 「Forbes JAPAN 1月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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