一族の家訓に発展の秘密あり
「語るなかれ」──。
ロスチャイルド家が初代から不文律としてきたのは口外しないという秘匿の慣習であった。それを掟とし、「信用」を重視したのは、一族の成り立ちに起因している。
18世紀後半、マイヤー・アムシェル・ロスチャイルドはフランクフルト・ゲットーで商いを開始。彼は希少価値のある古銭取引をする商人となり、非常に裕福なヘッセン大公国の皇太子ヴィルヘルム9世からも贔屓にされる。26歳の若さで財政・徴税担当者に任命され、皇太子ヴィルヘルム9世の財務の手助けをするような人物だった。
ナポレオンがヘッセン大公国に侵攻してきた際、ヴィルヘルム9世は資産の大部分をマイヤーに託し、隠し、管理させた。その成功報酬のお陰で、マイヤーの5人の息子たちはそれぞれ、長男アムシェルはフランクフルト、二男サロモンがウィーン、三男ネイサンはロンドン、四男カールがナポリ、五男ジェームズがパリと、それぞれが根付いた土地で銀行業務を起こすことができたのだ。
一族の武器となったのは情報ネットワークである。「情報こそがカネに変わる」ことを見抜いていたロスチャイルド家は、欧州に情報網を構築し、さらに欧州大陸に鉄道を敷設することで、産業革命の変化を広めていった。
ロスチャイルドという言葉は「赤い盾」を意味し、それは家紋になっている。また、その家紋にはラテン語で3つの言葉が添えられる。それが、ロスチャイルド家に代々伝わる3つの家訓-- Concordia(調和)・Integritas(誠実)・Industria(勤勉)だ。
どこの名家にも家訓はあるだろうが、ロスチャイルド家が3世紀にもわたって発展を続けた秘密に、この家訓が機能してきたことは疑いない。初代マイヤーは毛利元就の「三本の矢」と同じような、「五本の矢」による結束を5人の息子に託したが、この結束が機能したのは、鉄則を守らなかった場合は一族の事業から追放するという厳しい掟があったからだという。熱心なユダヤ教徒であったマイヤーは、「教え」を守ることについて厳格だったのだ。
その家訓は、あらゆる意味でシャーロットは「関わるすべての人たちに幸運があることを真に願い、行動している」と、シャーロットの普段の振る舞いについて言及する。
例えば、シャーロット自身が祖父から受け継ぎ、ディレクターを務める世界40カ国の植物と文化を集めたエクスバリー・ガーデン。彼女は庭師や石炭木炭を運ぶ一人ひとりの名前を覚え、休暇は取れているのかと尋ねる。フラットな視線をもち合わせ、決して奢ることはない。
ちなみにこの庭園は年間約90000人にのぼる人たちが訪れ、その入園料すべてがチャリティー基金として庭園の運営・保持に役立てられている。「チャリティー」という言葉の主たる意味は、慈愛や思いやりだ。「家」や「文化」を長期に渡って守り続けるのに必要な精神だろう。
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