ビジネス

2020.02.26

経営学者・入山章栄が語る なぜ、アルノーは「現在」を象徴する経営者なのか

LVMHグループ会長兼CEOのベルナール・アルノー


そして何より、アルノーは「ブランドとは何か」をものすごく理解していた。「ブランド」とは顧客への約束です。ブランドを愛してくれる人を裏切らないという約束がある。それは「使用欲」企業が、常に顧客のニーズに対応していくのとは真逆。長い歴史のなかで、綿々と築いてきた顧客との信頼を崩さないことが大切だということがよくわかっていた。一方で、アルノーは、例えば、販売や宣伝などでは最新テクノロジーや手法を取り入れています。ブランドの核をぶらさずに、新しい取り組みも行なっており、そのさじ加減が絶妙にうまい。

M&A後の手法にもつながりますが、「長期視点でブランドを守り、本当に大事なポイント以外は柔軟に変えていく」。そして、ブランドの価値を高めていく。こうしたアルノー流の成功事例を、数多くのブランド買収後に行ったことで現在のような帝国をつくりあげたのです。

そして、アルノーが、ブランドの価値を知る経営者として象徴的なのは、LVMHが保有するブランドの多くを「グローバルブランド」にして、世界中の人たちに無形の資産価値を感じさせていることです。グローバル市場を対象する、グローバルブランドが必要不可欠ななか、それを最もうまく展開している。アルノーが天才的だと思うところです。

「使用欲」と「所有欲」が共存する、これからの時代、日本の企業及び経営者は、アルノー率いるLVMHを始めとした「所有欲」に強いブランド企業から学ぶことは多いと思います。なぜなら、日本企業は、一般的に「価値に対する正当な評価ができない」。無形資産に対して、金額を高く設定すること、うまいプライシングができない。

ただ、アルノー率いるLVMHが保有するブランドを見てもわかる通り、「特別感」を出しながら顧客に対する約束を守り、裏切らずにぶれずに展開できれば、その価値を感じてくれる人たちは世界中にいるわけです。そして価格は高くても買ってくれる。

「差別化して、価格優位性を保ち、機能性のよいもの」を追求する時代と「特別な価値を醸成し、顧客との約束を守るブランド」が併存する時代へともうすでに変わっているのです。


入山章栄◎早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授。慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所を経て、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールアシスタントプロフェッサー。13年より、早稲田大学大学院経営管理研究科准教授。19年から現職。著書に『世界の経営学者はいま何を考えているのか』『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』『世界標準の経営理論』

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文=入山章栄

この記事は 「Forbes JAPAN No.080 2021年4月号(2021/2/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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