僕たちは皆、「自分ができること」で社会とコミットしている
田内の作品は、ジェフ・ヴァンダミアの『Dead Astronauts』(MCDxFSG)、国内では荒山徹の『柳生大戦争』(講談社)などの書籍の装画や、東京都渋谷区円山町「タイ東北モーラム酒店」の外壁など飲食店の壁画にも使われている。
いわゆるこうした「アプライドアート(応用美術。アート作品を実用的なものへ応用すること)」の分野に、田内はもともと興味があったのだろうか。
田内の作品が装画や書籍中の章扉などに使われた、ジェフ・ヴァンダミア著『Dead Astronauts』。ヴァンダミアはアメリカの作家、編集者、および文学評論家で、その作品は早川書房から邦訳もあるほか、『全滅領域』はナタリー・ポートマン主演で映画化(ネットフリックスで配信中の「アナイアレイション」)もされた。
「僕は元来、ストリートアートやオルタナティブなものに心酔していたし、アートの世界もメインストリームでなく『傍流』から入っているので、『作品』として美術館で観てもらうより、むしろ僕の描いたものには合っていると思うんです。あと、アートを通じて社会とコミットできるのもいい。そう、『社会とのコミットメント』という点でいえば、自分の絵は「繋がり/連続性」や「関係性/関連性」を描いているので、エージェントの仕事に求められる微妙なバランス感覚も関係しているかもしれませんね」
田内は、社会人は誰しもが社会とのコミットメントを「自分ができることを使って」やっていると思うと言う。それはたとえば、ふだんは経済活動かもしれない、とも。
渋谷区円山町、神泉駅前のランドマーク的風景として知られる、タイ料理「モーラム酒店」のファサードの壁画
「でもそこに加えて、僕が『とにかく線を引いてみた』みたいに、たまには自分の衝動に耳を澄まして、『やりたいこと』を加えて、とにかくやってみてもいいかもしれません。好きなことなのできっと推進力も後押ししてくれるし、そこに対して真摯なエネルギーを注ぐことができるはずです」
マーケットは罪深くも「不可欠」
「とかく熾烈な環境下にあるビジネスパーソンたちの日常は、圧力鍋の中で圧縮されているような状態かもしれない。でも、本能的にエンゲージできることをやってみることで、高圧の鍋の中でも破裂せずにすむかもしれないと思う」
アムステルダムの書店ABC(American Books Center)で、ショーウィンドウを使ったドローイングのパフォーマンス/インスタレーション中の田内
そうして、成果が少し積み上がってきたら、外に向けて発信や発表を試みるのもいいという。
「おもしろいのは、僕の場合のように、最初は社会的なことでなく、あくまでも個人的だったはずの『やりたいこと』が、世界、つまりはマーケットに放たれてみると、形を変えたり、意味を持ち変えることがある、ということなんです」
マーケットは気まぐれだし、裏切るし、ある意味「罪深い」。けれど、かといってマーケットがなければ何も起きない。
「マーケットに発信することで責任が生じ、より誠実なコミットメントが必定となる。そのことで、出力するものが、より質的に重要な意味を帯びることもあると思うんですよ」