ビジネス

2020.02.18 07:30

住民に支持される「広報誌」を生んだ、ある公務員のプロ意識

広報みよし撮影の様子

年配層はもちろん、若い世代からも支持されている埼玉県三芳町の広報誌「広報みよし」。平成27年全国広報コンクールでは、内閣総理大臣賞を受賞した。市販の雑誌のようなインパクトのある誌面は、同町の町役場で広報を務める佐久間智之によってつくられたものだ。

「公務員が広報誌をつくるのも、プロの編集者と同じように、お金をもらっている。そこにボーダーはない。だから、僕は彼らがつくる雑誌よりもいいものをと、いつも考えています」

こう語る佐久間だが、そのストイックなまでの姿勢の裏には、公務員に対する危機感とプロ意識があった。


埼玉県三芳町で広報を務める佐久間智之

捨てられた広報誌を見つけ一念発起


佐久間は、2011年4月から2018年5月まで三芳町役場で広報を担当し、民間企業への出向を経て、再びこの広報担当を務めている。広報担当になったきっかけは、介護保険を担当していた際、調査に行ったマンションのゴミ捨て場で、「広報みよし」がチラシに紛れて捨てられていたのを目にしたことだ。

「2つの意味で『もったいないな』と思いました。1つは、税金と資源の無駄。もう1つは、住民に対して、町の情報が届いていないということ。どうにか改善できないかと、心にずっと引っかかっていました」

広報誌は、町の「顔」のはずだ。簡単に捨てられてしまうようなものでよいのか。そんな思いを抱いたちょうど矢先、三芳町長が町のPRを進めようと、初の広報担当を募集するという話が舞い込んできた。

佐久間は、以前、ビジュアル系バンドのフライヤーを作成していた経験があった。このノウハウは広報誌に援用できるのでは──。そう考え、広報担当に立候補。町長に「日本一の広報誌をつくります」と宣言し、固い握手を交わしたという。


佐久間智之が手がける「広報みよし」

しかし、ことはそう簡単ではなかった。当初は、広報誌のタイトルをローマ字に変えただけで、「前のほうが良かった」と住民から苦情が殺到。そこで、表表紙はローマ字、裏表紙はひらがなにして、裏からも表からも読める「両開き」に変更した。

画期的なアイデアかと思われたが、余計に混乱を招いてしまうという結果に。「広報誌を手に取る人たちのことを、よく考えていませんでした」と、佐久間は当時を省みる。
次ページ > 地域の伝統芸能を特集に

文=加藤 年紀

ForbesBrandVoice

人気記事