「パラサイト 半地下の家族」の胎動はすでに「スノーピアサー」にあった
とくに同社が400億ウォンもの製作費を出資した「スノーピアサー」は、企画段階から世界での上映を念頭に置いていた。ハリウッド豪華キャストを盤石の布陣とし、韓国映画の可能性を広く知らしめたこのきわめてエポックメイキングな作品も、CJの全面的な支援なしには実現し得なかったグローバルプロジェクトだった。
CJはこの「スノーピアサー」のような大型グローバルプロジェクトを手がかりに、海外市場への進出に本腰を入れ始めた。韓国映画の海外配給だけでなく、現地俳優をキャスティングし、現地の言語によるリメイク版ローカル映画製作にも心血を傾けたのだ。とりわけ2014年に韓国で開封した「怪しい彼女」は、中国、ベトナム、日本、インドネシアの各国でもリメイク版を製作し、好評を博した。現在はアメリカのスタジオと組み、英語バージョン、ならびにスペイン語バージョンの「怪しい彼女」の製作が行われている。
映画「パラサイト」の快挙に対し、映画業界はイ・ジェヒョンCJ会長の功績に改めて注目している。CJは多様なコンテンツを打ち出し、エンターテイメント市場で驚くべき成果を出し続けてきたが、これも、文化事業に対する同会長の強い意志あってこそだったからだ。
CJグループが文化事業に進出したのは、サムスングループから分離した直後の1995年。米アニメーション映画製作会社ドリームワークス設立に3億ドルを出資したことがきっかけだ。
当時まだ30代だったイ会長は、伝統的な国内向け食品会社「第一製糖工業株式会社」をベースに、事業の多角化を構想していた。映画事業は食品とはまったく関連がない上、ドリームワークスに出資した「3億ドル」という額は同社の年間売上げの20%を上回る高額であったため、経営陣の反対を押し切っての出資だった。以後、CJがエンターテインメント事業に投資した総額は、実に7兆5000億ウォン(約7000億円)以上にのぼる。
サムスングループ創業者の祖父が唱えたマントラ、「文化なくして国はあらず」
イ会長が文化事業に強い執念を示す理由は、サムスングループ創業者の祖父イ・ビョンチョルの教えに起因する。イ・ビョンチョル元CJ会長は、ビジネスで国家に寄与するという「事業報国」の理念と共に、「文化なくして国はあらず」として、文化の重要性を唱えていたことでよく知られる。
CJはドリームワークスへの投資を皮切りに、1998年には韓国初のシネマコンプレックス「CGV」を開館した。CJによる映画産業進出後、韓国の映画産業は飛躍的な発展を遂げた。1999年に3000億ウォン(約280億円)程度だった韓国の映画市場規模は、2018年には興行売上げが世界5位に入る16億ドル(約1760億円)にまで成長したのだ。ハリウッド映画一辺倒だった映画市場における占有率(総観客数に対する韓国映画観客数)も、実に「8年連続で50%超」という風景の変わりようだ。