香港で下船した客が感染していたことを受け、大型クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号は、横浜港の大黒ふ頭沖に停泊を指示され、上陸が許可されていない状態が続いている。船内には2666人の乗客と1045人の乗務員がいる。
このケースは、グローバル化した現在の感染症対策の問題に焦点を当てたかたちとなるが、どうすれば海外からの感染症の流入を防げるのだろか。
船舶からの感染症流入対策は幕末から
日本で検疫が実施されるようになったのは、幕末からだ。開国とともにペストやコレラなどが何度も流行。1879年7月には、「海港虎列剌病伝染予防規則」(のちに「検疫停船規則」と変更)が施行された。
このような規則は、戦後の検疫法に引き継がれ、現在に至っている。この検疫法は、発展途上の国における、主に「船舶から」の感染症の流入抑制を念頭においた制度だ。
いまや時代は変わった。海外旅行をする人の数は激増して、2018年度の出国日本人数は1895万、訪日外国人数に至っては3119万人だ。訪日外国人のなかで、もっとも多いのは中国の人たちだ。2018年は838万人が来日した。2014年の241万人から248%も増加している。
また、その多くは航空機を使う。上海から羽田や成田空港までは3時間30分、関西国際空港までは2時間30分、福岡空港ならわずか1時間40分だ。感染症には潜伏期間がある。前出のペストの場合は2~6日、新型コロナウイルスは5.2日(95%信頼区間で4.1-7.0日)だ。最長2週間という専門家もいる。
潜伏期間は無症状だから、検疫は素通りとなる。中世のように港ですべての旅客を40日間も足止めすることはできない。妥協の産物として、感染者がいる場合、同乗者を2週間停留することになる。
しかし、これでは潜伏期の感染者を見落とし、意味があるとは思えない。このことは、2009年の新型インフルエンザの流行でも実証されている。この時、厚労省は4月29日から機内検疫を開始し、5月末までに空港検疫で8人の感染を確認した。ところが、これは氷山の一角だったのだ。
私たちの研究グループは、東京大学医科学研究所の井元清哉教授たちと協力し、そのときの検疫では、14倍にあたる113人の感染を見落とし、入国を許したという結果を発表した。
そればかりか、検疫を強行すれば、旅行客の健康を害する怖れもある。現在、このことはまったく議論されていないのだが。