ビジネス

2020.02.09 17:00

ニュースアプリは民主主義になにをもたらすのか


「アルゴリズムは社会のインフラです。彼らの設計一つで、情報に大きな影響を与えることができる。少し歴史を振り返ると、印刷技術の発展に伴って、ペンを持って文章を書ける人たちの影響力が強くなりました。マスメディアは破壊的な力を持っているからこそ、社会的な責任が伴うわけです。今の時代はコードを書くエンジニアがマスメディアと同様に責任が大きくなっていますよね」

それは当然、自らにも跳ね返ってくる。かつて、浜本のような天才エンジニアは、自分の楽しみやみんなの利便性を純粋に追求しているだけでよかった。現代は純粋さが思わぬ副反応を生みだし、社会を悪い方向に変化させる可能性もある時代だ。スマートニュースのアルゴリズム変更が、良質な情報を伝えているジャーナリズムそのものを追い詰めていくことも想定できる。

「責任は常に自覚しています。単に読みたい記事だけ届けるだけではエンジニアとしては不十分で、個人のウェルビーイングに本当に資するのかどうかが問われています。それは私たちだけではなく、世界中のソフトウェア開発者が問われていること」と浜本は真剣な面持ちで語った。アプリを成長させるために、エンジニアの技術以外の「質」の競争も始まっているということだろう。

鈴木には忘れられない思い出がある。ちょうど今(19年)から30年前のことだ。当時、西ドイツ・デュッセルドルフの日本人学校に通っていた鈴木は、修学旅行でベルリンを訪れ、「ベルリンの壁」を越えて東ドイツに入った。そこにあったのは、東ベルリンから西ベルリンへ国境を越えようとして射殺された市民がいたことを伝える記念碑だった。見えない線を越えようとしただけで、殺される人たちがいる。鈴木は「理不尽」を抱えて、学校に戻ることになる。そして数カ月後──。朝起きて、テレビをつけるとベルリンの壁の上で騒いでいる人たちの姿が映し出されていた。ドイツ語を理解できない少年は、いったい何が起きたのかを完璧に理解はできなかったが、その日のうちに日本語でもニュースが届き、ベルリンの壁が崩壊したことを知った。

少年はこう思った。「環境が変われば社会はあっけなく変わる。つまり、環境を変えれば良い方向に変化させることもできる」、と。ここに鈴木の原体験がある。成長した鈴木は、インターネットに社会変革の可能性を見た。ペシミスティックな性格だという彼は、インターネットにだけはあえて可能性にかける道を選んだという。

「今は解決すべき大きな課題がたくさんあります。スマートニュースだけでネットのあらゆる問題を解決するというのは傲慢な姿勢だと思いますが、僕たちができるトライはすべてしたい」

課題、責任、哲学をすべて踏まえ、彼らは歩き続ける。一歩がそのままインターネットの未来になることを覚悟を持って。

文=石戸 諭 写真=マチェイ・クーチャ スタイリング=堀口和貢 ヘア&メイクアップ=AKINO@Llano Hair (3rd)

この記事は 「Forbes JAPAN 1月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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