ここに「真逆のアプローチ」を提案する。ひょっとすると知名度と好感度の両方が手に入るかもしれない。
今日もどこかで炎上している。企業や芸能人の不祥事、特定の人種に対するヘイトスピーチなど、インターネットや週刊誌、マスメディアから発せられるニュースの多くは、私たちが持つ怒りや不安、時には正義感を刺激し、批判や誹謗中傷といった行動に走らせる。私たちはそんな毎日にすっかり慣れてしまった。でもそれでいいのか。
炎上を意図的に発生させ、知名度を高める炎上マーケティングが一般化したのは2010年頃だろう。「炎上マーケティング」で検索すると、11年に世界三大広告祭のひとつ、カンヌライオンズで手法の新しさが評価され複数の賞を獲った、ルーマニアのチョコレート「ROM」の事例が出てくる。それからおよそ10年。炎上マーケティングという言葉は一般的になったが、知名度を得て好感度を失うこのやり方は企業が取り組むにはリスクが高すぎる。
知名度も好感度も得られる新しいやり方があるとしたら。私はそのヒントが「やさしい炎上」にあると考えている。そう思ったきっかけは香港の逃亡犯条例改正案への抗議デモのニュース動画だった。
過去最多の200万人とも言われているデモ参加者によって埋め尽くされた道路。そこに救急車が差し掛かると、さながらモーゼの十戒のように人々が道を譲り、救急車が進んでいく……その「親切動画」が、世界中で話題になっていたのだ。ほかにもデモ後にゴミ拾いを行う動画などを、デモ隊が地域住民に嫌われないようにSNS等で拡散しているという。
モーゼの十戒のように救急車のために道を譲る群衆の姿が「親切動画」として話題に。
SNSなどで火種がつき、それをネットニュースやマスメディアが取り上げて大きな炎になっていくという構造自体は普通の炎上と同様だが、炎の質が違う。ネガティブな気持ちに火をつけてすべてを焼き尽くすような炎上ではなく、ポジティブな気持ちに明かりを灯すキャンドルリレーのような炎の広がり。親切が拡散する、やさしい炎上はこれからの企業コミュニケーションのヒントになるのではないか。
そう考えて世の中のやさしい炎上といえる事例を集めてみると、いくつかの傾向が見えてきた。私はこれを「熱狂後」「非常時」「神対応」「恩人」という4タイプに分類した。
香港デモのゴミ拾い動画のような事例は「熱狂後」型に分類できる。ほかには、たとえばスポーツの試合終了後を思い出してみてほしい。サッカー日本代表のサポーターが、負けてしまった試合の後に会場のゴミ拾いをして帰るという話題がニュースになった。ハロウィーンのゴミ問題解決に取り組むボランティアがニュースになったこともある。