──あなたは本の中で、原始貨幣が、硬貨などのハードマネーや紙幣などのソフトマネーへと発展していく経緯を丹念に追っています。貨幣史におけるデジタル通貨の位置づけを教えてください。今後、同通貨をどのように発展させていくべきでしょうか。
まず、世界の取引の85%が今も現金であることを忘れてはならない。ドイツの人口は8000万人を優に超えるが、クレジットカードの発行数は1000万枚程度だ。文化的に負債が罪悪感と連動しているからだ。
デジタル通貨の未来を予測するといっても、あくまでも米英をはじめとする一部先進国に限った話でしかない。もちろん、そうした国々ではデジタル化が進み、お金の不可視性が高まる。決済システムが、スマホだけでなく、人間の目や脳に組み込まれるようになるからだ。
目で商品をスキャンすると自分の口座に課金されるなど、人間の体が取引ツールと化す。その結果、個人が収入や資産によって選別されたり差別されたりといった、深刻な倫理的問題が浮上する。決済システムの組み込みには多難な前途が待ち受けているが、未来はもう到来しつつある。
──日本は現金大国ですが、政府がキャッシュレス化を推進しています。一方、クレジットカードの使用は浪費や負債を招きやすいという批判もあります。
デジタル取引の増加は経済成長を促す。紙幣には事務的処理という負担が生じるが、デジタル通貨は迅速性と便利さを生み、国家経済の成長増につながる。一方、お金の使い過ぎも問題だ。多くの米国人がクレジットカードの負債を抱えている。クレジットカードを使えば生活水準が上がるが、度を越せば将来が危うくなる。ひと月の限度額を決めるなど、各自が金融リテラシーを高めるべきだ。
──ブロックチェーン技術を使ったビットコイン、独自仮想通貨の発行に挑むフェイスブックなど、デジタル通貨が話題ですが、その可能性とリスクは?
ビットコインは、エンドユーザーにとって、外国への送金手数料を大幅に節約できるという、このうえない恩恵がある。一方、リスクは、(端末などの)デジタルウォレットにアクセスされて不正取引される、なりすまし犯罪だ。また、お金の流れをたどれるため、デジタル通貨は匿名性にも欠ける。
お金はツールでしかなく、それ自体に善悪はないが、その使い方しだいで良くも悪くもなる。お金は、私たちとともに進化する。それをチャンスに変えるかリスクに変えるか、決めるのは人間だからだ。