この連載では、新規事業開発や広告制作を手がけると同時に、本をこよなく愛する筆者が、知的欲求を辿るように読んだ書籍を毎回3冊、テーマに沿って紹介していく。第9回は、「人間関係を築く」に効く3冊。
私たちはしばしば自分たちのことを指して、「人(ひと)」ではなく、「人間(にんげん)」と言う。なぜか。人は常に自分と自分以外の人と関わりながら生きている。そこに「間(ま)」が生まれるからだ。
しかし、仕事に、交友に、恋愛に、家庭に、多くの人が人生を通じて、この「間」に悩まされる。例えば、職場でいつも取引先に対して物怖じせず交渉し、次々に仕事の扱いを獲得してくる頼もしい上司がいるとする。一方で、その強気がゆえに、部下に対してはパワハラになってしまっているということもある。
人と人との立ち位置や距離感によって、人間関係は大きく変化する。だから、難しい。
そんな人と人との間をつかさどるプロとも言える存在について書かれた本が、エリック・シュミット、ジョナサン・ローゼンバーグ、アラン・イーグル著『1兆ドルコーチ シリコンバレーのレジェンド ビル・キャンベルの成功の教え』(ダイヤモンド社)だ。
ビル・キャンベル、またの名を「1兆ドルコーチ」は、シリコンバレーで最も影響力があると言われた人物の1人だ。ビルはコロンビア大学アメリカンフットボール部のコーチからテック企業への異色の転身を遂げ、GAFA(Google、apple、Facebook、amazon)を筆頭にシリコンバレー有数の企業の成長に大きく貢献した伝説的な存在だと言われている。
なぜビルはスティーブ・ジョブズ、エリック・シュミット、ラリー・ペイジ、ジェフ・ベゾスらビジネス界の巨人たちをはじめ、多くの人から慕われ、愛されてきたのか。その秘密が余すところなく本書に語られている。
スタッフミーティングをいきなり無機質な仕事の話から始めるのではなく、旅行に行っていたメンバーがいれば、熱心に旅の報告に耳を傾けて「間合い」を詰める。テック業界では重宝される「ディーバ(傲慢なスター、規格外の天才)」に対しては寛容であり、守るべきとしながら、他のメンバーの「間」を壊すのであればその限りにあらずとする。
2016年に75歳でこの世を去り、生前本を出そうとしなかったというビルの愛に満ちた「人間関係のつくり方」は一読の価値がある。