新国立競技場で第1号ゴールを決めた男。藤本憲明を支え続けたものとは

Masashi Hara / Getty Images


異彩を放つサッカー人生をちょっぴり自慢げに、胸を張って振り返る藤本は、理想とするゴールを「PKですね」と迷うことなく答えたことがある。意外に聞こえる答えを「形はどうでもよくて、得点できればそれでいい」と補足したあたりは、数字が評価に直結するストライカーの本音と言っていい。
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結果だけを貪欲に追い求めてきたサッカー人生で、ヴィッセルから届いたオファーを断る理由はなかった。夫人が第4子となる四女を妊娠していたこともあり、大所帯になった最愛の家族を養っていくためにも、自分の力で手繰り寄せたチャンスをどんどん生かしながらステップアップしていく。

しかし、ヴィッセル入り後は、けがもあってゴールから遠ざかった。我慢を重ねた日々を「ここに来るときに覚悟を決めていたので」と前向きに受け止めてきた藤本に、待望の移籍後初ゴールが生まれたのは昨年11月30日。相手はトリニータの一員として、開幕戦でゴールを決めたアントラーズだった。

アントラーズで始まり、アントラーズを介して上向きに転じた軌跡をアントラーズで終える。創設以来の悲願でもある、初タイトルをかけた天皇杯決勝の相手がアントラーズに決まった瞬間から、まるで自己暗示をかけるかのように大舞台でのゴールを宣言してきた。あえて口にして周囲に伝えることで逃げ道をなくし、自分自身にプレッシャーをかけて成長を促してきたと言っていい。
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「僕、有言実行男なんですよ。来シーズンはACL(AFCチャンピオンズリーグ)もあるので、鹿島に限らずにもっと、もっと結果にこだわりながら、自分自身もレベルアップさせていきたい」

新国立競技場の柿落としも含めて、初ものにめっぽう強い藤本のサッカー人生をあらためて踏まえれば、ヴィッセルおよび藤本個人が初めて臨む、天皇杯優勝とともに出場権を獲得しているアジアの頂点を目指す戦い、ACLにも思わず期待したくなる。

グループGに入っているヴィッセルは、2月12日のACLのグループリーグ初戦で、ホームのノエビアスタジアム神戸に、ジョホール・ダルル・タクジム(マレーシア)を迎えることがすでに決まっている。

藤本の天皇杯決勝をあらためて振り返ってみれば、ゴール後に、右手で英語の「L」を、左手で同じく「T」をつくるポーズを新国立競技場のピッチで披露している。昨夏まで在籍したトリニータへ捧げる「LOVE TRINITA」の頭文字を表していた。

昨年ヴィッセル入りした直後にリーグ戦で対戦したときには、古巣トリニータのファンやサポーターからブーイングを浴びせられたこともあった。それでも、トリニータの公式ホームページにはシーズン途中で去ることを心から詫びる、藤本のこんな言葉が綴られている。

「僕も成長してきます。永遠に僕は『LOVE TRINITA』です」

藤本のSNSにはトリニータだけでなく、鹿児島や佐川印刷と所属してきたすべてのチームや、指導を受けてきた指導者、薫陶を受けてきたかつてのチームメイトたちへの感謝の言葉であふれている。これからも胸中に抱き続ける熱き思いもまた、異能のストライカーを進化させる糧になることだろう。

連載:THE TRUTH
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文=藤江直人

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