ビジネス

2020.01.25 18:00

「自動からくり人形師」ムットーニはなぜ熱狂的ファンを獲得できたのか


オフライン+ビジュアルストーリーテリング

なぜ“未来”なのか。第一に、物語を「体験」できる点だ。本人が「俺の作品はアナログなんだ」と評するように、ムットーニ作品はすべて本人の手作り。人形は粘土で、箱は木の板を切ってつくる。音楽は自らトランペットで演奏。仕掛けを考えるのもすべて一人だ。

ムットーニ 自動からくり人形師
「俺の作品はアナログなんだ」と語る武藤氏(筆者撮影)

最新テクノロジーは一切使われておらず、仕組みはシンプルな電気仕掛けのみ。なのに、鑑賞者は上演中の数分間、物語への「没入感」を得る。

動画マーケティングの普及、そしてVR、ARの開発競争からも分かるように、コンテンツマーケティングに取り組む企業はオンラインのコンテンツでいかに没入感を与えるかに苦心している。ビジュアルストーリーテリングについても、多くの企業が没入感を目指していることは言うまでもない。

とはいえ、やはりオンラインのコンテンツは、オフラインの体験にかなわない。「オフライン+ビジュアルストーリーテリング」のムットーニ作品は、一気にエンゲージメント(愛着)を高める手段として優れていると言えよう。

コミュニティー化の瞬間

第二に、実際に足を運ぶ必要がある点だ。映像で観るのと実物を体験するのとではわけが違う。筆者は双方を鑑賞したが、映像で没入感は得られなかった。本人によると、一度に楽しめるのは大型作品でも最大15人程度。紙芝居が上演されているような、ある意味で昭和時代の公園を思わせる光景であり、鑑賞後は不思議な連帯感が生まれる。まさに「コミュニティー」となった瞬間だ。

ムットーニ サーカス 自動からくり人形
武藤氏提供


「コミュニティーマーケティング」という概念が誕生したことからもわかる通り、近年、マーケティングの世界では消費者や顧客をつなぐことや、つなぐ場を提供することを重視している。

ここで言うコミュニティーとは、オンライン、オフライン双方を意味するが、とりわけ後者については改めてその価値が見直されている。小さなイベントや勉強会から大きなユーザー会やカンファレンスまで。米国ではスタートアップ、大企業を問わず、コミュニティー形成の場づくりに余念がない。

ムットーニ作品の熱狂的なファンは多く、日本全国の展覧会に足を運ぶ人すらいる。展覧会の設営から撤収にいたるまでを外注せずすべて一人でこなす武藤氏。ファンの中から撤収を(アルバイトとして)手伝ってくれる人も出てきた。ムットーニ作品は必ずしもメジャーな存在というわけではないのかもしれないが、強固なコミュニティーは確実に存在する。

ムットーニのような作品をマーケティングに活用するというのは、今の時点では(アナログすぎることもあって)現実的ではないかもしれない。とはいえ、今回ご紹介した通り、ビジュアルストーリーテリングの手段はほかにいくつも存在する。オフラインの場に人をどうやって連れてくるかという課題は残るが、「オフライン+ビジュアルストーリーテリング」には大いなる可能性を感じる。

文=田中森士

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