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左より:丹青研究所 﨑山幸子氏、丹青社 蓮見淳一氏

文化空間を専門とする国内唯一のシンクタンク「丹青研究所」をグループ内にもつ丹青社。今後、同機関が蓄積した知見をどう空間づくりに生かしてくのか、これまでの取り組みとビジョンを伺った。


観光資源として求められる本物の文化

近年、日本は国を挙げて観光立国を目指し、固有の文化を積極的に内外へ伝えるよう提唱している。その一端として、ホテルやインフラ、商業空間などにも日本の伝統文化を生かすことが求められ、その手法に大きな期待が寄せられている。

そうしたなか、日本を代表する空間創造のプロフェッショナル集団「丹青社」が果たすべき役割は大きい。民間企業として唯一、文化財を扱う空間に特化した「丹青研究所」をグループ内に抱えるからだ。

1984年に創設された丹青研究所は「日本を伝える」を理念に掲げて、日本の文化を守り、生かし、伝えるための空間づくりに携わってきた。同社が蓄積してきた文化財の保存環境整備とミュージアムづくりに関するノウハウは膨大だ。

特に情報部門の高度な調査力によって構築されたデータベースは、文化庁や博物館関係者から信頼と評価を得ている。また昨今では、長年の知見を生かして、国の文化政策にも貢献している。同社取締役の﨑山幸子氏は、こう語る。

「想像した以上の速さで、いまの時代には観光と文化の融合が求められています。2020年の訪日旅行者数の目標は4,000万人とされています。近年は旅行者の数とともに質も重視され、いかに消費額を上げていくかが課題となり、“より本物の体験”へのニーズが強くなっています。その舞台は“ローカル”、テーマは“文化”です。

地域の人々の暮らしを守りながら地域の文化による観光を促進し、その収益を地域エコノミーに還元して文化継承の財源とする。そうした文化による循環型の観光がこれからの主流になってくるのです。その際の文化とは、観光のオプションとして“垣間見る”程度のものではなく、より深い文化体験となる“本物”であり、そのストーリーを理解できることが必要です。そうした要望に対して、私たちは、文化、文化財の保存と活用の経験に基づき、さまざまな提案をさせていただける優位性があり、さらにそれを提案だけで終わらせず、空間づくりを手がける丹青社と協働して形にすることができる強みがあります」

丹青社のクリエイティブディレクター、蓮見淳一氏が﨑山氏の言葉をつなぐ。

「宿泊施設の分野でも、保存やセキュリティ上のハードルはあるものの、文化財を取り入れた空間づくりは確実に需要があります。2017年にリニューアルした浅草ビューホテルでは、新しい提案をしています。本来、収蔵庫にしまうべきお祭りで使う神輿をロビーに展示しました。訪れる旅行者に本物を通じて、その価値や土地の風土、文化、コミュニティを知って興味をもっていただく。そうしたことが文化への理解促進と地域活性化につながるのではないでしょうか。また、私たちデザイナーは今後、例えばホテルを設計し竣工して終わりではなく、その先まで考えた付加価値を提供しなくてはなりません」




「浅草ビューホテル」のロビーの中心には、祭りで使用する本物の神輿が鎮座している。浅草のコミュニティに溶け込む同ホテルならではの試みで、本物に接することができるこうした空間が、訪問者に感動を与え、地域の風土と文化への理解を促す。文化財が施設の付加価値となる一例。

今日、重要な文化財を後世に残すために適切な保存の必要性が重視される一方、観光への活用策も求められている。丹青社は保存環境を考慮した見せ方を丹青研究所と提言していくことができる。

宿泊施設が文化発信の場に

蓮見氏はこれまでも、自らが手がける空間に日本文化を取り入れてきた。2019年にオープンした「ラグーナベイコート倶楽部 ホテル&スパリゾート」の内装には、細部に至るまで職人技の粋が生かされており、その美しさは見る者を圧倒する。

蓮見氏の信念は、ものづくりに徹底して手間暇をかけることだ。

「表層的に日本文化を取り入れることは簡単です。例えば、格子を使えば容易に和風を演出できます。既製の素材を使うなど効率性を重視すれば、作業も楽になります。しかし、手間暇をかけたものは生みの苦しみはあっても、最終的に価値あるものとなる。つくり手の魂が宿るのです。特にホテルは数十年先まで見据えることが大切で、時間に耐えうる本物の価値のあるものでなくてはならないのです」


「ラグーナベイコート倶楽部」の日本食レストランの椅子には西陣織が使用され、来訪者に日本の伝統美を伝えている。

そうした蓮見氏の理論と姿勢は職人たちの共感も得て、文化と伝統技能の継承にもつながってゆく。同ホテルの日本食レストランでは椅子の側生地に「西陣織」を用いたり、エントランスにある「金細工の松」は金物作家がその生態から調べてつくりあげ、背景には2枚貼り合わせた特殊な「手漉き和紙」を使用した。どちらも大変な手間暇をかけて完成させたもの。今後は、丹青研究所のネットワークにある地域の名工との協働も視野に入れているという。


同施設のエントランスには金物作家による松が水面から現出し、金屏風を思わせる和紙の背景とともに日本の美をモダンに演出する。

「ホテルは実体験を伴った伝統文化を紹介する場となり、結果的にその地域の、ひいては日本のショールーム的な機能を担うことになるのでは」と﨑山氏は言う。

「例えば着物や帯に用いられる西陣織をインテリアや家具などに用いることは素材としての可能性を示し、伝統産業の市場を広げて文化の継承と発展にも貢献することになる。ホテルが伝統と文化を発信する場として寄与することは社会貢献でもあり、未来への投資でもあるのではと考えます」

2018年、丹青研究所内に国際文化観光研究室が立ち上げられた。文化と観光を融合させた観光先進国の文化政策、観光政策を調査し、その内容を丹青社と共有し、議論と発想を積み重ね、デザイナーがインスピレーションを得て形にするまでの流れをつくり出そうと考えられたものだ。観光資源となる日本の文化をいかにして空間づくりに取り入れ、地域と産業に貢献していくのか。丹青社グループの力量が今後いっそう発揮されることだろう。




“長いサイクルで存続するホテルには、先を見据えた素材選び、ものづくりが大切。それが文化や職人技の継承にもなる”

蓮見淳一
◎1991年丹青社入社。クリエイティブディレクターとして専門店やホテルを主に担当。幅広い経験と知見を生かし、ダイナミックでラグジュアリーなデザインを得意とする。


“宿泊施設は文化体験の重要な舞台となり、本物を求めるお客様に対し、旅の価値を高める強力な要素になるのでは”

﨑山幸子◎1997年丹青社入社。同年グループ会社である丹青研究所へ出向。以来、文化財の保存・活用に関する調査・企画・設計に従事。
2016年取締役に就任。



Vol1|事業主×建築×インテリアの融合から生まれた 稀代のラグジュアリーデザイン

丹青社

https://www.tanseisha.co.jp

丹青研究所
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Promoted by 丹青社 / text by Mari Maeda (lefthands) / edit by lefthands / photographs by Jun Miyashita

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