校則も定期テストもない 桜丘中学校のインクルーシブ教育が「大人たち」にもたらしたもの

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桜丘中学校で行われているのは、インクルーシブ教育である。西郷校長は教員としてのスタートを養護学校(現在の特別支援学校)からスタートさせており、発達障害などへの理解も深い。短い命を終える子どもたちにも出会った。そしていまを楽しく生きることが何よりも大切だと思うようになったと語った。

最初はとまどっていた教員も、その理念を理解し、少しずつ変化していった。すると、子どもたちが変わっていく。ひとたび、いい循環が生まれれば、あとはどんどん改善されていく。それぞれの生徒が居心地のいい空間を見つけ、不登校の生徒は減り、多様であることがよしとされる場では、いじめも必要なくなった。

学ぶ意欲が高まり、「自分で考える力」を身につけることができるため、桜丘中学校の学力は、世田谷区でもトップクラスとなった。実生活にリンクさせて学ぶ英語は、飛び抜けて高い実力がついている。東京大学と東京学芸大学によるリサーチでは、いま注目されている非認知能力も高いという結果が出た。

2019年の国際学力調査(PISA)で、日本は、2015年の前回と比べ、科学は3ランク下げて5位、数学は1ランク下げて6位と、なんとか上位にとどまったものの、読解力は7ランク下げて15位という結果となった。

読解力といっても、ただ単に文章を読み解くだけの力ではない。大学教授のブログ、本の書評、科学雑誌の記事の3つを資料として、そこから根拠を示しながら、自分の考えをまとめる力が問われたもので、まさにこれからの時代に必要な高度な学力である。膨大な情報のなかから重要なものを選び取り、教科の枠にとらわれず横断的に自ら考え表現するための力だ。

この国際学力調査の結果が出る以前から、文部科学省も経済産業省も教育のイノベーションが必要であるという危機感は抱いており、2020年度には新しい学習指導要領が小学校で、2021年度には中学校でも施行されることになっている。桜丘中学校では、まさにこうした動きに先駆けて、実践的な力を身につける環境を整えてきたと言えるのではないだろうか。

保護者も自分たちで社会を変える力を



このトークイベントでは、桜丘中学校の様子をスライドで見て、西郷校長の話を聞きながら、3人の登壇者も大きく頷いていた。

教育評論家の尾木さんは「既存の社会にうまくハマるための人材ではなく、新しい社会を創っていける人間を育てることが教育です。多様性を認めて、それぞれの力を生かして協力し合うことは、これからの日本の社会や企業を組み替えるための大切な取り組みね」と桜丘中学校の教育に共感し、「私たちの大人の生き方、価値観の見直しが迫られている」と警鐘を鳴らした。
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文=太田美由紀

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