テクノロジー

2020.01.09 07:30

「水素燃料」自動車で巻き返しを図る、米スタートアップの挑戦

トレバー・ミルトン

動力源としての水素は、60年にわたり魅惑の蜃気楼のような存在だった。37歳の起業家は、時代の変化を早めることができるか。


米国では、電池駆動車のテスラがドライバーにガソリンの使用をやめさせる大きな後押しとなっている。テスラを生み出したイーロン・マスクは──さらに畜電池式電動大型トラックの販売も計画しているが──燃料電池(フューエル・セル)を「フール・セル(愚かな電池)」とあざ笑い、水素燃料を「ばかげている」と評した。しかし、水素燃料はこのところ、それほどばかげたアイデアには見えなくなってきている。

一つには、米国南西部でますます有り余っている太陽エネルギーの存在がある。そのため、真昼の余剰電力を流用することで、水から水素燃料を安価につくり出せる可能性が生まれているのだ。もう一つには、畜電池が長距離のトラック輸送での使用に適していないことがある。充電に時間がかかるほか、重量が重いためだ。
 
ニコラ・モーター・カンパニーの創業者兼CEOであるトレバー・ミルトン(37)は、水素で大型トラックを走らせることができると主張する。ミルトンはノルウェーのエネルギー企業のネル・ハイドロジェンなどから2億6500億ドルの資金を調達した。しかし、アリゾナ州クーリッジに生産工場を建設し、完成したトラックの第一弾を出荷して公道を走らせ、カリフォルニアとアリゾナに10カ所の水素燃料ステーションを整備するためには、少なくとも10億ドルの資金が必要だ。

「特定の部品をつくればすむという話ではありません。ディーゼル車と競い、勝てる製品を実際に届けなければならないのです」とミルトンは言う。ニコラのセミトラックは──カーボンファイバー製の水素タンク、水素燃料、燃料電池スタック(発電装置)からなる1000馬力のシステムを搭載している──18輪のトレーラートラックをけん引する場合の最大航続距離が約1200キロで、重さは約9トンだ。同じ量の電力をリチウムイオン電池で供給しようとすると、同じ航続距離のトラックの場合、重量が最低でもさらに約2.3トン重くなる、とニコラは言う。

2020年には25台、21年には400台のトラックの製造を目指す。すべてが首尾よく運べば、22年には水素ステーション1カ所当たり1日8トンの水素を再生可能エネルギーから生産できるようになるという。これは、250台のトラックが走行し続けられるだけの量だ。
 
変化はやってくる。ひょっとするとそれは、ディーゼルエンジンのトラックメーカーが予想しているより早い時期になるかもしれない。


TREVOR MILTON◎ユタ州の大学を中退。モルモン教の布教活動でブラジルのファベーラ(スラム街)を訪れた際、より大きな問題について、とりわけ環境問題について考えるようになった。「恐らくあれが、人生最大の開眼させられた体験の一つでしたね」。

文=アラン・オウズマン 翻訳=木村理恵

この記事は 「Forbes JAPAN 1月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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